松瀬研祐

パスト ライブス/再会の松瀬研祐のネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

冒頭の、過去の韓国のシーン。学校から家路に帰る主人公たちは、まっすぐの道を奥からカメラに向かって歩いてくる。奥から前方へ縦移動。そして、やけに環境音が大きい印象。それが韓国の街の特徴なのかなとぼんやり観る。映画のラスト、ニューヨークにやってきた男を見送るため、家を出て、街を歩く二人の描写は、横移動で描かれる。その時の街の環境音も意識的に大きい気がした。

2人が歩くシーンは、意図的に、縦と横の描写の中で描かれて、一瞬、フラッシュバックで、過去の一点が挿入されるが、あそこを軸に、縦軸と横軸で交差する。いや、正確には交差しない。二人は、ぽつりと言葉を交わし、お互いの家へ帰る。

韓国の思想「イニョン」という言葉が映画の中で語られる。縁。それは現世だけではなく、過去に出会い(台詞で「パストライブス」と語れていた)があったかもしれず、それが今に繋がり、さらに、未来にも何かの縁があるかもしれないという考え方。

縦移動と、横移動を、意識的に使い、今その街の中に、二人をしっかり存在させた。「あの頃の私は、あの頃に置いてきた」的な台詞を主人公の女性は語るが、過去の自分は、もういないわけではなく、今、存在している、時間は、過去から未来への一方向だけではなく、縁で、そして、円のように存在している。

ただ、このタイミングで、二人は結ばれなかった。二人は、それぞれ、劇中で多くの選択があり、一つ一つを自分たちの意志で選びながら、結果、今を生きている。それぞれの人生を。『自分たちは結ばれない』と理解した。

もしかすると、自分たちが結ばれる今が存在したかもしれない、という想像は働く。しかし、それはあくまでも、想像。だからこそ、女性は、最後に、嗚咽する。絶対に叶わないことを悟り。それを旦那さんが優しく受け止める。三者三様に何かを得て、何かを得れなかった。それもまた「イニョン」なのだと思う。
松瀬研祐

松瀬研祐