Ayumi

パスト ライブス/再会のAyumiのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0

連休3日目にふと予定が空いたため、思い立ってチケットを取った。TOHOシネマズ日比谷の広い劇場がほぼ満席でびっくり。カップルやご夫婦が多かった。

中盤まで「恋愛ものとしては中途半端じゃない?」とややがっかりしながら見ていたが、最後のシーンで「この映画は恋愛ではなく、人生を描いているのだ」と思ったら、腑に落ちたような気がした。なぜいまいちと思ったかというと、行動力のあるノラに対して、ヘソンが平凡というか何をやりたいのかよくわからなかったから。24歳の時、「ニューヨークに来ないのか」と聞かれて、なぜ行くと即答しなかったのか。そして36歳になってなぜのこのこ現れるのか。恋人と結婚しないのか聞かれると、「彼女にはもっといい男が現れる」と言い訳がましく、なんとも中途半端でタイミングの悪い男だと思ったのである。

だけど、自分だって24歳の時を振り返って考えてみれば、日々仕事に奮闘しながらとっても楽しくて、恋人のことなど構っていられなかったことを思い出した。大事にすべき人を大事にできなくて、その結果後悔したこともある。それをなんとか正当化して、今手に入れたものに満足しながら生きている。そう考えると、ヘソンのことをどうこう言える立場にはないのだと思うのだった。

ノラはアーサーと結婚し、成功したキャリアを歩んでいる(オーディションらしき場面で、選考委員をやっていることから明らか)が、ノラにとってアーサーが運命の人かというとそうでもないのではないか、と思った。アーサーはそれに気づいていて、寝室のシーンで「僕は二人の運命に立ちはだかる悪いアメリカ人だ」とつぶやく(なんともメタなセリフだ)。やはりノラとヘソンはなんらかの運命でつながっているのだけど、それは必ずしも恋愛という狭いものではなくて、祖国や家族、学校の思い出、テストで競ったこと、母親に連れて行かれて出かけたこと、学校から一緒に帰ったこと、といった「記憶」にもとづく関係ではないかと思った。最後にノラが感情を露わにするのは、子ども時代に異国に移り住んで、慣れない環境の中、必死にずっとがんばってきた心の鎧みたいなものが、ヘソンに会うことで少し脱げたということではないか。そう考えると、中途半端男のヘソンも、芯の強そうなノラも、とても愛おしく見えるのだった。
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