あおは

パスト ライブス/再会のあおはのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

今、自分の周りにいる人たちは、家族や恋人、友人、知り合いとその程度に限らず、全員が前世で関わりがあった人たちなのではないかと自分も考えたことがあった。
まさに、ある朝枝にとまった鳥とその枝だったかもしれないと。

そういった運命や縁を韓国ではイニョンと呼び、PAST LIVESというのは前世という意味。

今作はBARで話す3人、ヘソン、ノラ、アーサーを見る客観視点から始まり、その視点は3人の関係を予想していて、2人の韓国人と1人のアメリカ人がいて、今にも涙を浮かべそうな表情を真ん中の韓国人の女性がしていて、アメリカ人の男性は会話に入ることができておらず、このカットだけで想像が膨らみ、おもしろい始まり方だなと思った。

ヘソンとノラは小学校のとき両想いだった。しかしノラはアメリカに移住し、2人は離れ離れになる。
このときのノラは少し特徴的な歩き方をしていて、脚の形とか歩き方とか、好きな人が持つすべての特性がその人を作っていて、そのすべてが愛おしいのだろうなとヘソンの気持ちを想像すると、ここでの別れが苦しくて堪らず、いきなり涙が出た。
自分の好みを挙げるならば、ここでの2人は両想いということが確定しているけれど、確定させなくても良いのではないかなと思った。お互いに思いは伝えなかったけれど、多分お互いに好きなんだろうなという曖昧さが残ったほうが想像の余地ができて、もっと深く入れたかなとは思った。

12年後に2人はネット上で再会する。
久しぶりに話した2人は再び惹かれあっていき、ビデオ通話を頻繁にする仲になる。
ずっと忘れられなかった人と再会できたヘソンの思いを想像すると、やはりここでも胸に迫る温かさと苦しさがあり、ためてから「会いたかった」と言うシーンはまたもや涙。

しかし再会した2人はここでもすれ違ってしまう。
NYに住むノラと韓国に住むヘソンは距離の問題でなかなか会うことができず、ノラはNYで成し遂げたいことがあり、ヘソンは中国語を学びに中国へ行きたいと思っており、お互いの人生を優先し、ビデオ通話もしばらくはしないという選択をとる。
お互いに強く会いたいと思っているのに会えない苦しさが胸に刺さった。
やはり結ばれない両想いが観ていていちばん辛いなと感じる。

さらに12年後、2人はNYで再会する。
普通の仕事をして、普通の生活をして、両親と暮らす、いかにも韓国的なヘソンと、作家をして、自由にラフに、夫と2人で暮らすノラ。
ソウルでお互いがお互いを好きだったころ、2人は子どもだった。12年前再会したときも、2人は子どもだった。でも今はもう子どもじゃない……。

結ばれそうだったのに結ばれなかった2人。
もしノラがソウルを去らなかったら、付き合っていたかな、結婚していたかな、子どもを持ったかな。ヘソンの言葉ひとつひとつが胸に突き刺さってきた。
12年前にNYにヘソンが会いに来ていたら、ノラが結婚していなかったら、BARに夫のアーサーが来ていなかったら。
どこかでひとつでも何かが変わっていたら2人は結ばれていたのかもしれない。
恋はタイミングで、去る人も残る人もいる。
そのすべてがイニョン。

NYに来たヘソンは服装もビシッときめて、髪もオールバックで上げていた。そのせいもあってか、佇まいや振る舞いがどこか情けなく見えて、だからこそノラを想いつづけて忘れられなかったヘソンの健気さが際立って、余計に切なかった。
もう何があってもヘソンにとってはノラがいちばんで、今後きっとヘソンも結婚するのだろうけれど、ノラの代わりにはならなくて、人生でいちばん好きになった人はノラで変わらないのだろうなと思うと、胸を押し潰されそうになる。

また今作がより複雑な感情を起こすのは、夫のアーサーの存在も大きい。
アーサーがとても良い人として描かれていて、アーサーの思いもとてもよく分かるから、より切ない。
自分がそのときただそこにいただけで、他の誰かでも同じだったかもしれないという不安はすごく共感した。
僕が分からない言語で君は夢を見ると表現されていた自分が踏み込めない領域への不安も分かりすぎて、全員の立場に立ってそれぞれが苦しかった。

最後にヘソンがタクシーで去る前に、ヘソンとノラは青いシャッターの前で見つめ合う。
このシーンの威力にやられた。
今にも引き付けられそうで、今にもくっつきそうで、その引力がまるで見えるようで、でも結ばれない2人の運命は、鑑賞から1週間以上が経過した今でも、居心地の悪い切なさが胸に灯る。

メリーゴーランドに、自由の女神像の周りを回る船に、雨。
どれも回って同じところにもどってくるもの。
今世では結ばれなかった2人が、来世では結ばれると信じたい。
あおは

あおは