クロ

パスト ライブス/再会のクロのネタバレレビュー・内容・結末

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

劇中で『エターナル・サンシャイン』についてのやりとりがある。『エターナル・サンシャイン』は元カノに関する記憶をめぐる旅の物語だが、この映画も『エターナル・サンシャイン』同様、記憶の旅の映画なのだと思う。まあこの映画は記憶の旅を受けるほうが主人公だけどね。

韓国にいる元幼馴染は昔の記憶が忘れられなくて会いに行く。異国の地で出会った国籍の違う夫は、彼女の韓国での記憶・ルーツを共有できていないから不安になる。
『エターナル・サンシャイン』は元カノとの記憶を消したくない!とジム・キャリーが記憶の中で奔走するけど、この映画は記憶の中の彼女が忘れられない男に対して、韓国語の「イニョン」や前世のの概念を出しながら、今回は縁がなかったのよと折り合いをつけさせる物語になっている。その上で自分が韓国ではない異国で異国の人と結婚しグリーンカードを手にすることも、これもまた縁であると納得する。なるほどねーこの監督は『エターナル・サンシャイン』をベースに、「記憶との折り合い」の物語として、自分の人生を作品に昇華させるのかー…まあエターナル・サンシャインに関しては「彼が会いに来たって私がエターナル・サンシャインを勧めたからかも!?」って思ってたからその描写を挟んだだけかもしれないけど笑
物語だけじゃなく情感たっぷりの演出もとてもみごたえがあった。

あの時、このタイミングでもしこうだったら、もしあの時…誰もが一度は考えることを、移民であることやルーツなども背景に忍ばせることで、どの恋愛映画とも違う毛色の恋愛映画に仕上がっている。
韓国とアメリカの時差スカイプ通話も、兵役や移民の描写があることで単なる恋愛映画の遠距離恋愛の描写の域を越えて、かなり味わい深いものになっている。
「ミナリ」のような「監督の個人的な話」が好きなのだけど、自分の人生がベースにあるからか1つ1つの描写もなんとなく気持ちのこもったものに見えるんだよな。
いや、最後のウーバーを待つ間の見つめあい長回しなんてドキドキしなかった!?その後、玄関で帰りを待つ夫の姿にドギマギしなかった!?
描こうとしても描けない描写にあふれてると思うんだけど、入れ込みすぎかなあ。

監督本人は女性であり旦那や幼馴染の描写は彼女の解釈が相当に入ってるのだろうけど、わかる範囲での描写に留まっていて彼女の目線から見た彼らを過剰に解釈・描写することがなくてそこもとても大人だった。
描きすぎない分こちらがこの映画の搭乗人物だけじゃなく、自分の人生についても考えさせられる余白まで残っていると思う。
「イニョン」の説明が唐突というか何かのやり取りの中で行われてほしかった、「韓国人らしい」の説明はもうちょっとあってもあってもよかった、など細かい不満はあるけど、自分の人生の中で起きた出来事について、観客自身も共鳴するような映画になっていてとても味わい深く面白かった。

『エターナル・サンシャイン』や『ビフォア・サンライズ』が好きな人には特に刺さるのではないかなと思うのでこの映画が好きな人はぜひ見てほしいな。
ってか、移民とかルーツとか関係なくこういう恋愛映画がもっとあってもいいのにな。
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