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パスト ライブス/再会のああのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
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監督が女性だろうと思って、鑑賞後調べたらやはり女性だった。

12才、24才、36才の3部構成になっていて、それぞれでノラとヘソンが対比的に描かれているのが目新しくて良かった。

内容としては、秒速5センチメートルを大人っぽい演出や舞台で再製作した感じ。
ただ今作は母国を出て夢を追った主人公の視点で描かれている。
今の夫との出会いを大切に思う一方で、ヘソンとの運命的な出会いに対する強い感情を捨て切れず悩んでいるといった中途半端な感情を美しく肯定的に描いていて好みじゃなかった。
全ての配役を男女逆にしたら、観客は浮気男の煮えきらない浮ついた態度に嫌悪感を抱くと思う。
ノラを愛する王子様達の嫉妬心にドキドキできるような、依然お姫様願望が衰えない30,40代の女性がターゲットのプリンセスストーリーということなのだろうか?


作中では以下の点でノラを魅力的(特別な存在?)に見せようとしている。
・小学生の頃、テストほぼ毎回1位をとっている
・母国を出て渡米している
・実学ではなく脚本家という一部の人しかなれない職業についている
・一方で、恋愛は理想的でなく現実的にみている
・結婚しているのに未だに自分を一途に想ってくれている幼馴染がいる
・元カレ?的なヘソンと2人で会うのを許容してくれる自分思いな夫がいる

上記のノラの魅力は表面的で都合の良い設定であり、ラブコメ的な上っ面さを感じてしまった。現代の強い女性として描きたいという意図は感じたが、渡米した理由も親都合でついていっただけで本質的な強さや魅力は感じられなかった。海外留学しただけで自動的に視野が広くなって偉くなったと勘違いしてマウントを取ってくる人と出会ったときと同じような感情を抱いた。

ー以下括弧内は本筋から脱線した話ー
(アメリカが世界の潮流を作っている現代では、自由主義こそ成熟した思想であり、韓国や日本のアジアの集団主義的で閉鎖的な文化を遅れたものと捉えられているように感じることが多い。
映画でも周りとは違う自由な発想を持つ主人公がヒーロー、それを否定する多数派的な考えを持つものがヴィランとして勧善懲悪的に主人公がヴィランを倒すというストーリーが多い。
しかし、自由主義と集団主義も優劣はないわけで、こうした自由主義的なヒーローの勧善懲悪的な作品を盲信し、集団主義的な文化を否定してしまうのは思考停止してしまっているように思う。
話を戻すと、当作品は勧善懲悪的なものではないが、いかにも韓国的な生活を送るヘソンと比較して、アメリカで韓国的な型にとらわれない生活をしているというだけで主人公が優秀で進んだ人物だと描かれて、そこに個人的に監督の思想の偏りを感じてしまった。)

渡米、脚本家といったノラの肩書きで成功者、強い女性といった印象を持たせているように感じたが、個人的にこれらの肩書きだけでは主人公(プリンセスストーリーのプリンセスとしての)たる魅力として不十分だと思ってしまった。


ノラとヘソンの繋がりは運命といった曖昧なものだけで、ヘソンがなぜそこまでノラに惹かれているのかわからなかった。
女性はみんな生まれながらにして自分のことをプリンセスだとほぼ無意識的に感じていて、本質的な魅力を手に入れなくてもありのままの自分を愛してくれる白馬の王子様が運命的に現れるのを待っている生き物だと仮定すると、やはり女性にはドキドキできる夢物語になっているだろう。だから男の自分には刺さらなかったのかなと思う。

細かい心の揺れ動きが俳優の演技で表現されていたが、その一方で演技以外の演出の手数は少なく物足りなさを感じた。
ああ

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