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パスト ライブス/再会のSPNminacoのレビュー・感想・評価

パスト ライブス/再会(2023年製作の映画)
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オープニングで、なるほどパスト(空き) ライブスだ…と納得。いわゆるすれ違いメロドラマの『めぐり逢い』案件とはちと違った。離れ離れの曖昧にもどかしい距離と時間は2人の関係を変えることなく、もしも…の先は誰にもわからず。お互い顔を見合わせて笑うしかない、良くも悪くもない、そうでしかないんである…
韓国からカナダ、NYへと根を移し、ノラとなったナヨン。ソウルに住む典型的な韓国の男ヘソンを想う気持ちは、ルーツへの郷愁か恋愛か、両方入り混じってるんだろうね。だから離れてこそ募る。自分がどちらに属する誰なのか、何を失い何を得るのか、選べずに。
韓国語で会話するノラとヘソンだが、NYで再会した瞬間ハグをしてくるノラはアメリカ人。それにたじろぐヘソン、2人の間で言葉がわからず不安になる夫アーサー。通訳しても埋まらない余白、バーに並んだ3人の近くて遠い距離。
けどアーサーは「空気読めよ」とはならず、ちゃんと気持ちを言葉にするのに対し、ノラとヘソン、過去と現在は常に並走しながら、何を言えばいいのかわからない余白があるだけ。その余白に名前を残したノラ。現実は平凡な物語だとしても、泣くノラを見守る人が現在にもいる。もうナヨンではないノラには帰る家があった。
映画はゆったりしたダイアローグを積み重ね間と呼吸を保ち、密度濃いエモーションをじっくり順序立てて見せる。途中までこれシンプルに短編向きかも?って気がしたけど、NYに来てからそれまでの内向的なトーンが開かれていく。メリーゴーラウンドは2人の輪廻、移民を迎えた自由の女神は残る者と去る者で違う姿を見せ、ブルックリンの街並みはホームタウンとしてしっとり落ち着いて静かだ。雨と曇り空の銀残しみたいな彩度低めの撮影がとてもきれいだった。
グレタ・リーの気取らない、よそゆきでない佇まいが良い。確かにホームにいる人のそれだったから。身体は逞しく大きくなっても顔つきに少年ぽさを残したユ・テオと対照的。いつまでも少女のまま、けれど鋭く射抜く視線で現実を見つめる。2人でわー、わーって意味なく繰り返したり、間が持たないから笑ったりするの、如何にも東アジア人っぽいというか…含んだニュアンスがジワジワくる。
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