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ミュージックのosumomのネタバレレビュー・内容・結末

ミュージック(2023年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

傑作か?『ミュージック』
 
 この1時間49分久しぶりに映画らしくないものを見た気分である。このセリフの少なさと、内容理解の難解さには何人もの観客がノックアウトされてしまうに違いない。それは、近年の映画を見る上において〈思考〉することを観客は積極的に行おうとしないからであって、ある一定の快感、もしくは感傷に浸され、私たちの映画体験は幕を閉じる。しかし、先に私は『ミュージック』を映画らしくないと表現したが、本来においてはもっとも映画らしいのである。確かに、とても退屈な時間であったかもしれない。このような根底に深い概念が潜在する映画は大衆的に睡眠導入剤になりかねない!しかし、何より『ミュージック』には映画史において芸術的価値がある作品であった。
 作品内容は、ソポクレスの『オイディプス王』をモティーフにしたストーリー。このギリシア神話の頂点に君臨する作品を、どう映画に落とし込むのかが問題視されるところではないだろうか。まず、「オイディプス王」というのは「腫れた足」を意味する名前である。これに伴い主人公・ヨンの足も赤く腫れ上がり怪我をしている。しかし、これ以外原作を彷彿させることがない。当然ヨンは、父を殺し、母と結婚し妻(母)は自殺するのだが、映画に残酷的な結末は無い。主人公は自分の両目をえぐったりなど決してしない!結末はミュージックという題に回収されていき、そこに何か映画的な意味を見出すことは極めて困難であった。始めに私が、この映画を難解であるといったのにはいくつかわけがあって、一つは劇中のカットそれぞれの連合性が薄く、暗号的であることである。統合失調症を彷彿させるくらいの思考の途切れ方である。それにより、観客は考えさせられる。一体このシーンの女は前のシーンの女と関係しているのか?(全くしていないのが腹立たしい)。もう一つはセリフの少なさである。映像には神話ならではの美しさが反映されているものの、セリフが少ないためとても展示的になる。観客の想像力がこの映画を完成させる、というところではないか。そしてこの映画がベルリン国際映画祭において銀熊賞(脚本賞)を受賞していることがとても厄介である。映像は語ることはできるが、セリフにはならないため、他の脚本家は混乱してしまうだろう。
 最後に私が、この作品に対して映画史において芸術的に価値があるというのは、この作品が多大なる評価を受けているところにある。このような作品が上映時にほぼ満席であったことはとても素晴らしいことである。しかし、その大半は中年であった。
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