KnightsofOdessa

Manodrome(原題)のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

Manodrome(原題)(2023年製作の映画)
2.5
[インセル集会に出てみたら…] 50点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。ジョン・トレンゴーブ長編三作目。仕事を失ったラルフは個人タクシーで日銭を稼ぎながら、鬱屈した感情を心の奥底に仕舞い込んでいた。スーパーで働く妻サルはそろそろ出産を控えていて、必要なものもこれから増えていくが、収入が増える兆しもない。そんな彼は暇を見つけてはジムに行って身体を鍛え、鏡の前で泣きそうな顔になりながら写真を撮っている。彼の幼稚な精神性や脆弱な男らしさそのものを映し出す見事なシーンだ。ある日、友人のジェイソンが自分も入っているというインセル集会を紹介してくる。自分の弱々しさに嫌気が差していたラルフはリーダーの言葉にコロッと騙されて、その嫌悪を爆発させ始める。同じジムにいた黒人マッチョ集団、深夜に拾ったゲイカップル、そして小言の多い妻に対してそれぞれ手を出して憂さ晴らしをしている。が、これらのシーンは結末を描かないままブツ切りで次のシーンに進むため、全てが事実とは限らず彼の妄想である可能性もある。その点で、マッチョになっても全然強そうじゃなく、黒人マッチョに挑む際もガチ震え声になっていたジェシー・アイゼンバーグの配役は正しい。

彼らは集会で"自分自身の主となる!"とか"自分のものを手に入れる"とかデカいことを言ってはいるものの、その鬱憤が外に向かうことはなかったのだが、ラルフだけは男たちで傷の舐め合いをするのも許せず、かといって抑え込んでいた感情の蓋は外されてしまったので、それが外の世界に向いていく。冒頭で少しだけ登場するライリー・キーオや妊娠中の妻サルは、ある意味で母親的存在への恐怖の具現であり、終盤で明かされるのは人生から一瞬で消えてしまった父親的存在の渇望そのものである。だからこそ、未だに趣味や思考が子供っぽく、出費以外の面で出産に恐怖しているのだろう。というラルフの内面は理解できるのだが、そもそものインセル集会の存在目的がよく分からず、あんな鬱屈した感情を貯めた人間が大量に集まってるんだからすぐに過激化しそうなもんだが、皆基本的に口が悪いだけで御行儀も良かったので不思議だなと。そういった現実味の薄さもまた、全てはラルフの妄想という説を補強している。また、ラルフは自身のセクシュアリティも抑圧していることが描かれており、差別を内面化してしまっていたことが明かされるのだが、『パワー・オブ・ザ・ドッグ』に比べると描写不足感は否めない。この点以外も全体的にパワー不足だった。流石に激烈に怪しいエイドリアン・ブロディだけじゃ引っ張り上げられないっすわ。
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