よしまる

ブラックベリーのよしまるのレビュー・感想・評価

ブラックベリー(2023年製作の映画)
3.9
よしまる独断による2023年洋画ランキング、1位からカウントアップしてきてようやく10位まで来ました。ベストテンに滑り込んだのは劇場未公開、配信のみのカナダ映画「ブラックベリー」。

タイトル通り、キーボードがズラズラと並んだ変わった形の携帯電話、BlackBerryを発売したRIM社の立ち上がりから消滅までを描いた実話ベースのコメディ。

え、会社の存亡を描いておきながらコメディ?
そう、紛うことなきコメディで、悲喜こもごもの喜劇としての完成度も高い。
最近よくみる90年代ものの一つとしても、挿入歌はゴキゲンな90sヒットパレードで楽しめる。

技術や才能はあるが商才はゼロの開発者マイクと、チームを束ねる相棒のダグ、そこへ自邸を抵当に入れてまで資金調達するほどに商売については嗅覚と行動力を持つビジネスマンのジムバルシリーがタッグを組む。まあ設定としてはありがち(いや、実話だって)。

かつてこの世に存在しなかったインターネットが出来るデバイスを誕生させるというドリーミングな前半、そしてiPhoneやAndroidの登場に打つすべなく瓦解していくダウナーな後半。

デバイスそのものの問題点もあるにはある。持ち前の営業力から企業や官公庁という安定かつ巨大な顧客を掴んでしまったがために生じたマイナス面も大きいだろう。

しかしながらやはりモノを作るのも会社を動かすのもすべてはヒト、そしてヒトとヒトとの繋がり。
成功事例に縛られ、他人の意見に耳を傾けないがために、自分たちの夢見た世界、理想のデバイス、そうした当初の理念を見失ってしまったのが最大の要因だった。

それにしてもiPhoneのセンセーショナルなこと。クリック感がないとか3Gさえ使えないとか、その瞬間の多くのマイナス面よりも遥かに多くのメリット…それはメールやブラウザだけではなくMAPやGPS、音楽プレイヤーから決済の端末に至るまであらゆるツールを詰め込んだデバイスになりうる、そのためのタッチスクリーンであり、アプリの解放であり、つまりはジョブスには見えていてブラックベリー社に見えていなかった「VISION」だったのだ。

考えてみたら26文字だけですべてが片付く北米と、その他の多くの文字を扱うアジアや中東、ヨーロッパの一部の国とではキーボードの使い勝手が全然違う。クリック感にしても、思えば自分もホームボタンのないiPhoneには抵抗があったけれど、今では無くて当たり前になっている。
さらにはハード面にこだわるあまり、OSやアプリを軽視してしまったこともインターネットが生活に浸透する未来が見えなかった証拠だ。

儲かる儲からないはどうでもいいとは思わない。それでも世界を変える、という強い理念も、優れた技術力も商才も、ヒトとの繋がりがあってこそ。
それを象徴するのが、毎週のように社内で映画上映会を催し、パソコンオタクの寄せ集めみたいな連中をコントロールしながらもマイクとジムの潤滑油として最高のHUBとなっていたダグの存在。

コメディリリーフのような扱いの彼がいかにキーマンであったかを示唆して物語は終息へと向かう。

ガラパゴスな日本では、BlackBerryがシェア50%近くもあったなどと信じ難い話だけれど、そんなにあって、まったくない、という驚くべき事実。
とても笑える話ではないけれど、もはや笑うしかないという意味ではコメディに仕立てたセンスは抜群だった。

なぜかフィルマには配信先が書かれておらずジャケ写も無いが、アマプラやUnextで有料配信はしているので、いま観たいものが無いな〜という方にはぜひオススメいたします📱👀