KnightsofOdessa

白塔の光のKnightsofOdessaのレビュー・感想・評価

白塔の光(2023年製作の映画)
4.0
[] 80点

2023年ベルリン映画祭コンペ部門選出作品。まだ『福岡』しか見たことないチャン・リュルにわか的に言わせてもらうと、実にチャン・リュルらしい平和な混沌の映画である。主人公はバツイチの料理評論家グー。記事の写真撮影を担当してくれる年下の同僚オウヤンと遠すぎず近すぎずの関係を続けている。そんな中、老母が亡くなってすぐの頃に、幼少期以降音信不通だった父親の所在を知ってしまい心がかき乱される。といった話を様々織り交ぜて、グーの人生を語っていく。後半になると、長回しの中で虚実が入れ替わったり時間を誤認させたりする実にチャン・リュルらしい映像が増えてくる。そういった時間の非線形性は、グーは他人の行動を真似したり、同じ言葉を繰り返し使ったり使われたりすることでも補強されていく。つまりは、そういった魔術的シーンだけではなく映画全体がそういったある種の循環、転じて(同じ場所にいるという意味で)停滞の中にいるのだ。オウヤンの存在は確かにMPDGのようで、そのエキセントリックさで彼を翻弄するが、一方で彼女のニックネームにもなっている出身地にグーの実父が隠遁している、姉と名前が同じなど、ある種の分身のような役割も担っており、彼女のピュアさや好奇心の旺盛さはグーが失った過去なのかもしれないと思うなど。その点でオウヤンのふわふわさに忌避感はなく、寧ろどうしようもないおじさん批評として見た。英題の"影のない塔"はグーが育った北京のある地区に建っている、誰も影を見たことがないという真っ白な塔を指している。グーとオウヤンのアイデンティティ(ペンキが塗り直される北京の下町と廃墟になった北戴河区の孤児院がそれぞれ印象的)が揺らぎ、映画そのものも様々な人と挿話を往来していく中で、塔は妙な存在感があり、錨のような役割を負っているようにも見えてくる。それにしても、初登場の人が"お馴染みの!"みたいな感じで普通にその場にいたり(『X-MEN』シリーズかな?)するので、個人的にはほぼ全てが主人公の妄想なんだろうと思っている。これと同じことをホン・サンスがやると途端にキモくなるのはなんでだろうか。
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