よねっきー

ミツバチと私のよねっきーのレビュー・感想・評価

ミツバチと私(2023年製作の映画)
4.5
音楽は絶対かけないっていうストイックな作りかと思ったら、最後の最後に変な感じで一曲かけちゃうのだけは作り手の自信のなさみたいなものを感じてちょっと残念だったが……それでも全体を通してなかなか良い映画だったように思う。最後らへんの展開とか非常に良い。

トランスジェンダー当事者の視点と、その家族や周囲の人々の視点が織り混ざった描き方が良かった。特にお母さんのドラマには想いを馳せてしまう。
お母さんはお父さんと違って、ちゃんと対話しようとする人だし、自分のわからないことを理解しようと努めている人だ。だけど彼女の「男も女も関係ない」とか「あなたは何にだってなれる」みたいな、一見すると無害で正しいように聞こえる言葉が、無意識のうちに主人公を傷つけてしまう。だって主人公にとっては、男か女か、それこそが問題だから。お母さんが「わかっている」と思っていたことを叔母さんから「わかっていない」と突きつけられるシーンは辛い。

いまの世界が男女二元論的に出来ている以上、トランスジェンダーに生まれることや、トランスジェンダーを家族に持ち育てることは、そのまま社会と戦う必要があるということを意味する。戦うのって、覚悟のいることだ。「男も女も関係ない」って言説は、正しいように見えて実は覚悟のいらない無責任な言葉である。だからお母さんが主人公をルシアと呼ぶのは、その覚悟を決める瞬間なんだと思う。ココでもアイトールでもなくルシアと一緒に、世界と戦うんだという覚悟。

そのキッカケとなるのが兄ちゃん(エネコ)なのが良い。勝手にプール作ったり、火遊びしたり、ずっと主人公の「共犯者」だった兄ちゃん。そういう共同経験を重ねたからこそ、彼がいちばん最初の理解者なんだと思う。
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