IkTongRyo

Haulout(原題)のIkTongRyoのレビュー・感想・評価

Haulout(原題)(2022年製作の映画)
3.2
とても静かな映画だが、とても恐ろしい映画でもある。
2023年のアカデミー賞で短編ドキュメンタリー賞にノミネートされた今作。

Hauloutという言葉はセイウチなどの行動原理を示す生物学用語だが、日本語の直訳は存在しない。
意味は「鰭脚類の採餌の合間に集団で氷上や海岸で休息する休息場」。

今作はそんなHauloutロシア人の海洋生物学者、Maxim Chakilevの日常を通して描く気候変動の現実。
舞台は何もない、ロシア極東連邦管区の北東端に位置するチュクチ自治管区。
北極海に面した小さな小屋しかない島で、Chakilevの孤独な3か月間をドキュメント。
毎年、彼は秋になるとここでセイウチの観察を行う。

たった一晩の間に、島を完全に覆う大量のセイウチ。
彼らが休息の場として使っていた氷や流氷が地球温暖化によって消滅し、陸地を追い求めてセイウチが島に集う。
限られたスペースにぎっしりと詰まるセイウチたちは群衆雪崩のような現象を起こし、死亡する個体も。

Chakilevはドアから出られないので、屋根をつたって外に出る。
悪臭に苦しみ、彼は自分の非力さとちっぽけさを感じながら、毎年増え続けるセイウチの死亡数を記録していく。

ナレーションはなく、セリフもほとんどない。最後に補足的な説明テキストが入るだけ。
あとはただただ、延々と繰り返されるセイウチの鳴き声に加え、目の前にある強大な自然現象の事実が映像として映し出される。

気候変動の影響を伝えるのに言葉や説明はいらない。
さらに海洋生物学者の孤独な仕事のおかげで、こういった極地で起きている事実が我々に届く。

たった25分の間に、多くの学びを与えてくれる。
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