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ビヨンド・ユートピア 脱北のTSのレビュー・感想・評価

3.7
【命懸けの亡命】78点
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監督:マドレーヌ・ギャヴィン
製作国:アメリカ
ジャンル:ドキュメンタリー
収録時間:115分
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 2024年劇場鑑賞1本目。
 北朝鮮と韓国の緊張状態が続く中、このドキュメンタリーもなかなかタイムリーなものであると思いました。脱北関係の映画は確か『トゥルーノース』や『THE NET 網に囚われた男』でも見ましたが、やはりそのどれもが凄まじい描写。前者はアニメで後者は普通の映画でしたが、今作はドキュメンタリーであり、再現VTRはなく全て本物の映像です。北朝鮮の異常とも言える日常的な映像をふんだんに使用するとともに、緊迫の脱北シーンに介入した貴重なドキュメンタリーと言えそうです。

 さて、韓国のキム・ソンウン牧師は功労者であり、なんとこれまで1000人以上の脱北者を支援してきました。今回もロー家の脱北を援助していくのですが、もちろんバレたらタダではすみません。警察犬などが行く手を阻むのですが、他の国から遠回りしてなんとか韓国にたどり着くようにしていくのです。そのルートも凄まじく、北朝鮮を抜けて中国を通り、東南アジアのベトナム、ラオスを経由してタイまで行き、そこから韓国に行くという超過酷ルートなのです。印象的な言葉がありました。それはロー家の人たちがとある晩に放った「今日も警察から逃れられて感謝します」という強烈な言葉です。一体全体なぜ警察から逃げられて感謝しないといけないのでしょうか。国民を守るのが警察なのに、完全に機能が破綻しています。

 ということで、今作の前半では北朝鮮についてのさまざまな学者や知識人からのインタビュー映像が映されます。ある人によれば、現代史において北朝鮮ほど凶悪で非人権的な国家はないようでして、敢えて類似するならばナチスくらい、とまで言わしめたほどです。そんな常軌を逸した国が日本のすぐ隣にあり、度々ミサイルをぶっ放してくることが非常に恐ろしいです。今や国際関係は非常に逼迫しています。ヨーロッパもアジアもジリ貧状態であり、いつ戦争が起きてもうおかしくないくらい。戦争というのは、他国の常識を受け入れない極めて盲目的になってしまっている国が、非人道的な行為を行うことにより勃発してしまうのでしょう。その非人道的な国家を作るにはプロパガンダが超重要になってくるのであり、北朝鮮は執拗なまでに外界の情報を遮断し、国民を教育という名の洗脳で従えているのです。

 教育の恐ろしさを今作で垣間見れました。子どもたちが不気味な笑顔でマスゲームに参加する姿は、心のない軍隊そのものだと感じました。にこにこ笑っていますが、あれほどのレベルに仕上げるためには、目を覆いたくなるほどの強烈な指導があったことでしょう。また驚くのを通り越してドン引きしてしまったのは、金一族を神と崇めて、金一族の神話ができてしまっているということです。これを成り立たせるために、もちろんキリスト教の聖書は禁書となっているようですが、この金一族の神話は、聖書の要素を多分に含んでいると思われます。

 ああなんて虚しい国であろうか。そしてこの国に愛想をつかせて逃げていこうとする国民を容赦なく捕まえては虐殺する国家。まるで恋人に逃げられてヒステリックになっている異常者のようです。北朝鮮のこれらの行為は決して許されるものではありませんが、じゃあなんかできるのか?と言われると沈黙してしまうことしか出来ないのが情けないです。
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