umisodachi

ビヨンド・ユートピア 脱北のumisodachiのレビュー・感想・評価

4.8


脱北者に密着したドキュメンタリー。

脱北者に協力し続けていたソウルの牧師の元には、北朝鮮国境付近にいるブローカーや、家族を脱北させたいと願う脱北者から日々色々な連絡やお願いがくる。監視の目が強まり年々脱北は難しくなっていると語る牧師だったが、幼児と老人を含む5人家族の脱北を手助けすることに。一方で、息子を呼び寄せたいと願う脱北者の女性からの依頼も進行していて……。

北朝鮮の歴史や現状、脱北に関する情報や複数の脱北者たちへのインタビューなどを交えながら、2つの脱北プロジェクトに密着している。いやあ、凄かった。

無知な私は、脱北者は韓国に直接入るのかと思っていたがそんなことは到底不可能らしい(地雷がたくさんあるので)。よって、中国に渡ってから安全を確保できる国まで移動する必要があるとのこと。その工程がどう考えても無理でしょっていうレベルの難易度で、聞いているだけで気が遠くなった。しかも、それを老人と幼児込みで成し遂げなければならないのだ。

牧師は人道的な観点から活動を行っているが、彼が連絡を取っているブローカーたちは違う。彼らは良くも悪くも金銭的なメリットしか考えておらず、脱北するには絶対的に金が必要になる。密着している撮影クルーも当然資金を提供しているのだろうが、具体的に総額いくらかかっているのかは不明だ。とにかく、金と段取りと運と体力のすべてが上手いこといかないと絶対に成功しないということは伝わってきた。

想像を絶する北朝鮮の状況と、あまりにも辛い現実。常に笑顔を絶やさない牧師の口からも、悲惨な過去が語られる。あまりに大きいリスク。それでも救いたいという信念。ある人物のことを「一粒の麦」だと彼が語った時、涙が溢れてしまった。

ずっと緊張しっぱなしの映画体験になったが、観るべき作品だと思う。洗脳がいかに協力なのかも感じることができる。画面が暗いので映画館で観るのを推奨。
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