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ビヨンド・ユートピア 脱北のらののネタバレレビュー・内容・結末

5.0

このレビューはネタバレを含みます

バイト帰りの夜、寄り道してみた映画。隣国の、アウシュヴィッツのような大規模な収容所での拷問の話は苦しくて聞くに耐えなかった。私には全てが衝撃的で、めぐまれた環境にいるからこそ、この現実を広く伝えていかねばと思った。忘れないうちに急いで感想と内容をメモ!拙い言葉ですけど!

北朝鮮から脱北する家族と、それを手伝う牧師の過酷な旅は見ていてハラハラした。映像もスマートフォンや携帯電話で撮影したもので、臨場感が伝わってくる。だが、字幕を追うので精一杯で映像がしっかり見られなかったので、中国語と韓国語が聴き取れたら!と思った。
家族は、共産主義国家のベトナムやラオスでは常に警察に捕まらないように気を張り、時にはジャングルを抜けて進んでいく。ラオスとタイの間を流れるメコン川を渡る時は、河底で水が渦を巻いているため、一度船が沈むと命を落とす確率が高い。常に命の危険と闘いながら、脱北者を支援し続けるキム・ソンウン牧師さん、ほんとすごい!4カ国を経由して韓国へと無事到着した家族が、故郷の現実を知って愕然とするシーンには胸を打たれた。

実は、映画の中で一番驚いたのは、北朝鮮国家がキリスト教の聖書を禁止している理由である。なんと、党の唯一思想体系確立の10大原則は、モーセの十戒を丸パクリして完成させた条文なのである。金日成は虹を渡ってきた神として、金正日はその使いとして紹介されていた(ように記憶している)。そしてそれを信じこませる政治的プロパガンダにも驚いた。
北朝鮮では、憲法に信教の自由が明記されているものの、実際には有名無実な条文で、国民は家の一番目立つところに国家最高指導者の写真を掲げなければ罰せられる。突然家に政府関係者が訪れ、写真にホコリがついていないか確認させることもあるという。北朝鮮の人々はアメリカを「憎きアメリカ」と呼び、子供たちはアメリカ人を懲らしめる物語を劇にして歌い踊る。放課後には硬いコンクリートの上で、側転技や踊りの練習。また、それぞれがカラーパネルを持って大きな国家指導者の絵や国旗を表す練習(これをなんというのか忘れてしまった)の際には、一人がトイレに立つと絵が欠けてしまうため、そのまま漏らす子供もいる。学校では「最高指導者を喜ばせることが1番の幸せ」「悪いことをすると殺される」と教えられ、幼いうちから処刑を見させられてきた子供たちは、常に怯えつつも金正恩を「世界で一番素晴らしい人」と語るのであった。

 でも、よく考えると私の幼稚園の運動会では虹色の円形の布をみんなでぐるぐる回す謎のパフォーマンスを強いられたし、小学校では組体操や統一されたダンスをしたなと。祖母の家には天皇陛下のカレンダーもかかっていたことなどを思い返すと、日本も一歩間違うとまた変なことになりかねないナァとしみじみ思ったりした。(ちなみに、虹色の布はパラバルーンというらしく、あるホームページでは「パラバルーンを動かすなかで運動能力を向上させる」ことがねらいとしてあげられていたけれど、あればかりやっていて運動神経が良くなるとは1ミリも思えない..)

そして、一番心を打たれたのが、作中で登場した老婆が、脱北後に国家の真実を知るとき。今まで信じたものが脆く崩れ去り、自分の信念を否定することにひどく苦しんでいる姿を見て、こっちも泣きそうになった。老婆が故郷の歌を懐かしそうに歌うシーンではついに涙腺が崩壊した。
 映画の中である脱北者の女性は、「北朝鮮で一番幸せを感じたのは、比べるときだった」と語っていた。小さな牢獄の中で暮らす人々は、たとえ道で痩せ細って死んだ人をたくさん見たとしても、日本やアメリカの暮らしはもっとひどく、それに比べて北朝鮮は世界で一番進んでいると考えているのである。(ついでに、日本では「太り過ぎ」と揶揄される金正恩も、北朝鮮の人々からすると超イケメンであり、脱北者のある女性は、韓国にて金正恩そっくりの旦那さんと結婚していた。びっくり)
 自分がユートピアと信じる国の真実を知らない方が幸せなのか?それとも知るべきなのか?自分がもし北朝鮮で生まれ育った老人だったら、知らずに死にたいと思うかもしれない(こういうふうに考える自分も怖い)
らの

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