ダイナ

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のダイナのレビュー・感想・評価

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ロシアによるウクライナ侵攻の惨状の記録映像、アカデミー賞長編ドキュメンタリー受賞作品。「この映画が作られなければ良かった」という監督が授賞式で放ったコメントが印象深いです。監督率いる取材チームが到着してから脱出するまでの20日間のマリウポリ市内の惨状を映します。直接的なグロテスクな映像は映されませんが、不安や心配からくる辛苦の吐露、死や肉体の欠損を明示する医療担当達の会話等、「リアルな映像」という前提を敷いている我々観客には重く沈み込んできます。「普段利用している小売店で盗みを働く」といった人間性に訴えかけるくシーンでは店主や軍の人達の怒りはもっともとは思いつつも、精神的に不安定な人達にとって物資が不足し外界の情報も入らない状況という点を考えると、この行為を完全なる悪性と捉えたくない気持ちがあります。

また本作で気付かされた異質な脅威の一つとしてフェイクニュースが挙げられます。AIの輝かしい成長の反面、というかそれ以上に負の側面が騒がれるフェイク情報生成が容易になった点は本作でも障害として取り上げられます。命懸けの現地取材の切り取りがフェイクの疑いをかけられた時の憤りはとてつもないでしょう。かといって被害側を全面的に信用するという極端な思考もまた盲目的に片方を否定する姿勢。本作のテーマと少し逸れますが「我々はニュースを与えられた時素直にそれを信じて良いのか?」という問題も浮かび上がるわけです。一次ソースが信頼性に足り得るか、複数メディアでの比較等、精査する姿勢を求められます。

視覚的要素を取り入れることがマイナスになり得るフィクションとは異なり、ノンフィションに関しては映像が最重要と考えます。ニュース文章や数十秒の映像だけに止まらない本作、ウクライナの実情を全世界に発信した本作の資料的価値は計り知れないでしょう。
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