木蘭

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間の木蘭のレビュー・感想・評価

4.6
 辛し・・・。

 「BS世界のドキュメンタリー」で前後編に分けて放送された作品だが、劇場で観るのは全く違う体験。
 大画面もさることながら、良い音響だと臨場感が全然違う。特に爆撃や砲撃の音圧を少しでも感じられば・・・ああ、直撃しなくても死んじゃうんだな・・・という事を察する事が出来る。

 2014年の内乱とロシアの介入はジワジワと日常が侵食される様相を呈していたし、逆に、今回のロシアの侵攻を地球の裏側でメディアを通して観ていると、ある日突然、戦争が始まって日常が一気に崩壊した感じを受けるが・・・この作品を観る少し様相が違うのが分かった。
 戦火は徐々に足音を立てながら迫ってきて、日常もそれに合わせて瓦解していく様子が分かる。
 これが臨場感というモノなのだろう。

 95分という短い時間の中に、この映像もあの映像もこの人達が取材したのか!という見知った映像が詰まっていて驚く。
 戦闘中の街の上を、ドローンで空撮しているのも凄い。

 そして、マリウポリが置かれた複雑な状況や無秩序の中の人間性が色々と映り込んでいるが、同時に断片的で、取りこぼしている事も多い。
 その辺の補足は、パンフレットを買いましょう。買って読みましょう。

 観ていて心配になったのは、ロシアの占領地に残された人々が、こうやって報道に乗って、尚かつこの映画で映し出されている事で、身を危険にさらされてないと良いけどな・・・と言う事。
 それと、クルー達をウクライナ側へ逃がした警官も、これって職場放棄して家族と一緒に逃げているのでは?処罰されたりしなかったのか?と思った。

 兎に角、この作品とスタッフは極めて上手くいった例。
 特ダネをゲットして、生還して、映画にもまとめられて、アカデミー賞まで取って世界中で上映されたんだから。
 それはそれで、彼らの能力の高さなんだが。

 その一方で、しくじった例も枚挙に暇がない。
 取材者が捕まって殺された『マリウポリ 7日間の記録』もそうだが、作品としてまとめられただけ幸運で、取材した素材すら失われる事もある。
 そういう危険を冒して届けられた素材を眺めながら、しくじった人々に心ない言葉を投げる奴らは、地獄に落ちたら良いのにな。
木蘭

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