Tommy

マリウポリの20日間/実録 マリウポリの20日間のTommyのレビュー・感想・評価

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エンタメや芸術と違うので評価はつけないことにする。

常日頃、自分を含め戦後の日本に生まれた世代は戦争の悲惨さを学ばされるばかりで、それは疑う余地はないものの、ではどうしたら防げるかを考える事が欠けていると思っていた。

それはそう.... なんだけど、体に残る物理的感情・感覚ってのは無視できないと感じさせられる映画だった。

最初に出てくるおばちゃんのシーンでは自分がまだ映画を観ている感があって、悲惨な出来事は許すまじとはいえ、この戦争を片方の視点ではなく政治的・歴史的・経済的・軍事的事実からなぜこうなったのかを知っておかないとかという気持ちでいた。

だがすぐにそんな気持ちは消えた。

妊婦や子供の死があまりに辛い。
命を落とした子供に泣きつく親が何人も出てくる。つらすぎる。

なんだこれは?一体、何のためなら何万という死を許容できるのだろうか?誰にそんな事が許されるのか。
治せない病気とか防げなかった事故など、平和な世の中であっても人間は不条理な死を迎えることがある。
こんなにポンポン人が死んでいく事が許されてよいはずがない。

ロシア軍に囲まれた病院の中で、片足を失った妊婦の出産のシーンがあった。胎児も危険な状態らしい。
生まれてきた子は血色が悪く、息をしていなかった。それまで映像の中で失われる命があまりに多く「あきらめるな!!!」と声をかけながら赤子の体を擦る医師・看護師の気持ちに反してこの子もだめなんだろうと思って観ていた。
何度も声をかける病院スタッフ。
もう死んでいるのかもしれないと思った。
このドキュメンタリーでは懸命に処置をしても助からないことがあまりに多い。
しかし次の瞬間その子の泣き声が聴こえた。
これまで赤子の泣きでこんなに希望を感じたことは無い。自分の経験したことのない感情に覆われた。方向感覚を失ったようにグルングルンと頭が揺れる感覚があった。吐きそうなほど涙が出た。

依然、この戦争が終わる気配が無いのが残酷すぎる。
Tommy

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