Enough

ゴッドランド/GODLANDのEnoughのレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
3.5
時は19世紀。デンマークの宣教師ルーカスは当時植民地であったアイスランドの辺境の村に教会を建てることを命じられる。彼はアイスランドの自然を記録に収めるため、あえて船ではなく馬に乗り、自然を横断しアイスランドに向かう道を選ぶ。

彼を案内するのはアイスランド人のラグナル。アイスランド語をしゃべるラグナルに対し、ルーカスは常に通訳を介し会話をする。不慮の事故で通訳が死んでしまった後も、彼はアイスランド語を学ぼうとせず「言葉がわからない」「何を言っているのだ」という言葉を繰り返す。

そんな彼の態度を象徴するのが写真だ。彼の撮影する写真は自然や通訳、旅の途中で命の危機に陥った彼を助けてくれたデンマーク人夫婦であり、アイスランド人を収めることはしない。そこには、彼がアイスランドを蔑み、キリスト教という枠に自然信仰が残るアイスランドを押し込めようとする姿が透けて見える。実際、「触るな!やめろ!そんな見苦しい顔は見たくない。能無しの豚め」といって自分の写真機が触られることに激しく抵抗する。

写真は芸術作品に通ずるツールである以前に記録の装置である。それは写真機を持つものが何を大事に思い、記録するかによって、何が残されるのかが変わってしまうということでもある。そして枠の外に自分の嫌いなものを追いやることで、自分だけの現実を構築することにもつながる。

実際、報道写真でもどんな写真が使われるかで印象が異なる。それくらい写真というのは人の印象を操作する。言葉がない分、より一層人の内面に影響するツールと言える。

私は自分でも写真を撮るくらい写真が好きだ。だが、あらゆるツールがそうであるように、写真もまた誰かを築けたり、自分のエゴを押し付けるツールになることを忘れてはならない。

アイスランドの厳しい自然が随所に現れる本作は、人間が生み出した機械の愚かさを突きつけるような作品であった。
Enough

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