すえ

ゴッドランド/GODLANDのすえのレビュー・感想・評価

ゴッドランド/GODLAND(2022年製作の映画)
4.6
記録

凄い映画だし、好きなタイプの映画だ、と開始早々ワクワクが止まらなかった。でもやっぱり我々には分かりにくい部分があるなぁと思う。宗教観においてもそうだし、国家間の歴史についてもそう、(良い意味でも)敵の少ない島国でぬくぬくと育ってきた我々にとっては掴みにくい感覚がある。それでもこの自然に圧倒されることは間違いないし、濃密な人間ドラマに揺れ動かされることも間違いない。前後半で味が変わる(主題は統一されているが)今作は、北欧映画らしいイメージに溢れていて、大満足。

アイスランドとデンマークの関係性を知っていればより楽しめるのは間違いないが、別に知らなくても十分面白いだろう。そんなことよりも強すぎる画面が目を離させてくれない。

火山の噴火というある種の男性的イメージから、映画内における新たな女性の出現というモンタージュ、ここに予期されるのは2人の邂逅と接近、そして性行為だろう。

また、霧が立ち込めるショットや、レスリングでの影が差すショット、そういったものに予期不可能性、不安を煽られる。言葉よりもショットが映画を語る、一見予測不能だがショットが展開を知る手がかりとなる。尤も、映画の不可逆的性質からそれに気づくのは終盤だが、段々発見が増えてゆくのが楽しい。

おそらく、最初に自分の判断で翻訳者を死なせてしまったところから、主人公は聖職者としての機能を失ってしまっている。彼の周りや、彼自身がそうと認識することで仮初の聖職者とはなれているが、本質的には既にその気高さは失われており、それゆえ教会も正しく機能しない。聖職者という道から外れた彼は、淫らに性行為に及ぶし、衝動的に人も殺してしまう。前半での壮大な景色を前に、我々は神の偏在性なるものを信ずるが、後半になりどんどん穢れてゆく主人公には(最後には泥に塗れる視覚的なショットまで!)最早、神の息吹がかからないのだとも確信する。

そしてルーカスとラグナルの互いの描写がとても丁寧で良い、一見正反対だがおそらくこの2人は似た者同士だと思う。両者を隔てているのはまさしく、言語であり、また歴史なのだろう。その柵に囚われた2人は意思と反し険悪になってゆく。彼らが言葉が通じ、同じ風土に生きていたのならば良き友人になれたことだろう。

ルーカス自身が、そしてみんなが彼を聖職者と信じ仮初のそれとして機能したのと同様に、我々が神を信じるゆえに神は存在しているのでなかろうか。みながその存在を疑った時、果たして神はどうなるのだろうか。

俺は神を信じないと主張しつつも、お金くださいといつも天に祈っている。みんなも自身のことを無宗教だ、無神論者だと思っているが、そうやっているかも分からない神に祈っている瞬間があるのだ。

2024,101本目(劇場29本目)4/22 テアトル梅田
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