Ricola

幻影は市電に乗って旅をするのRicolaのレビュー・感想・評価

3.7
日常生活での不満から夢、願望、幻想を実現したいという欲求は、いつの時代のどこにでも皆抱いているものだろう。

このタイトルの通り、男たちが走らせたお役御免となった古い市電133番が、幻影を見せてくれる。
それはこの市電にかかわる人たちそれぞれにとっての幻影である。


お祭り?での、少し雑でかわいい宗教劇がわりと長尺で見せられる。
後々の市電の旅で起こること、世の中に願うような理念のようなものが伏線として、この宗教劇がいきていたのだろう。

値上がりする小麦粉に、憤慨する人々。
卸業者に文句を言えと小売業者に言われた人々だったが、もちろん彼らはただ立ち尽くし抗議することしかできないはずである。
労働者たちも修道女も小学生の集団の中のいじめられっ子も、現実に何かしらの不満を抱き夢を見ている。
そんな日常にもその「夢」を叶えるような、不満を解消するような幻想は潜んでいるのだと、この作品を観ていると思わされる。

市電を動かしている男の一人と恋敵とが接戦なのに、これも市電によるミラクルだか何だかによって運命が揺らぐ。
それは市電がこの作品において、一種の神のような存在として機能しているのではないかと思う決定的瞬間であった。
彼の恋まで、偶然なのか運命なのか、市電が街を駆け巡ることで叶えてくれるのだ。

一見単なるコメディのようにも見えるが、冒頭のナレーションと念を押すようなラストの繰り返しのナレーションによって、ブニュエルの真骨頂であるシュールレアリスム的作品だということが示されているようだった。
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