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トンソン荘事件の記録のJFQのネタバレレビュー・内容・結末

トンソン荘事件の記録(2020年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

タイトルやサムネが醸し出す雰囲気に惹かれ観てみた。けれど、結論から言えばこの手の「ホラー・モキュメンタリー」としては特段新しいと思える部分がほぼほぼ見当たらなかった。。

強いて言えば、入り口が猟奇犯罪だったことか。ストレートに霊の話から入らず、犯罪事件から入って途中で霊の話にスライドしていくスタイルで意外性を作ったのは多少新しかったかなと。「猟奇事件の真相」に迫ることが「霊発生の真相」に迫ることにつながるという構成になっているので2つ楽しめるという。

とはいえ、結局は、スタッフが憑りつかれて、カメラに血がついて、画面が荒れて、カメラが転がって空を映すという「いつものパターン」で幕を閉じる。。

なので映画自体には特段語りたい点はないと言えばない(ヒドい笑)。

けれど、本作や、「呪詛」(台湾)、「女神の継承」(タイ)など「アジアンホラーモキュメンタリー」が近年台頭している背景には興味はある。なぜ今なんだろう?と。

思いつくところでは「近代の輝かしさ」の問題があるのかと思う。
近代化が輝かしいと思えた頃は「合理性」や「科学」などがカッコイイと思えた。近代が我々を豊かにし、幸せにしてくれると思えた。

そんな状況では「霊」など迷信であって、そういう考えは捨てるべきと思えた。

しかし、公害しかり、せわしない生活しかり、格差しかり、ある程度までいくと近代がそこまで「輝かしいもの」とも思えなくなった。

そうなると一度封じ込めようとしていた「前近代」がせり出してくるんだと思う。

実際、「近代の輝き」を知る60代以上より「生まれた時から失われたウン十年」な20代の方が「霊的なもの」を信じる割合が高いというデータもある。

日本では、それがワリと早く来た。なので、1988年「邪願霊」-1992年「本当にあった怖い話」のあたりから「ホラーモキュメンタリー」が進化を始め、99年の「ほんとうにあった!呪いのビデオ」を前後に量産・普及していった。

で。近年のヒットをみるに、タイ、台湾、韓国などでもその流れが始まっているのかなと思う。

とはいえ、「今の若い人の方が霊的なものを信じやすい」といっても、かつて(昭和まで)の「霊的なもの」と、今(平成以降)の「霊的なもの」はまた違うんじゃないかとも思う。

というのも「ホラー・モキュメンタリー」が作られるためには「霊をエンタメとしてイジる」感性が前提となる。

ある時期までは「霊をエンタメとしてイジる」には抵抗があったと思う。「そんなことをしたらバチが当たる!」「祟られる!」みたいな感覚があったと思う。

もちろん、心霊番組自体は「あなたの知らない世界」が始まった73年ごろからすでにあった。けれど、そこでは「こういう事例がある事を伝えたい」「心霊現象か検証するためにやっている」などの大義があった。「あなたの…」は「お昼のワイドショー」というワイドショー(≒報道)の枠組みの中で放送されていた。

もちろん、裏では番組を成立させるための「やらせ」もあったかもしれない。とはいえ「真剣に検証してるんだ」という「建前」はあったと思う。

けれどモキュメンタリーの場合は最初から「これは嘘です」と言ってる。検証もへったくれもない。「エンタメ」以外の何物でもない。それでも「アリ」と思えるには霊についての意識の変化がないといけない。

近年のヒットをみるに、タイ、台湾、韓国などでは、それも始まっているのかなと思う。

また本作について言えば「歴史の蒸発」も感じたところだ。というのも、事件発生の理由に「ベトナム戦争」が使われていることで。

米国と同盟関係にありながらも「憲法9条があるので集団的自衛権の発動には慎重なんですわ!」とか何とか言ってベトナム派兵を逃れた日本とは異なり、韓国では64年から73年にかけ、のべ32万人の派兵が行われている。そこでの戦争体験が、この「トンソン荘事件」の引き金になっている。

もちろん「モキュメンタリー」なのでそれは「ネタ」なわけだが、逆に言えば「ネタ」にできるくらいにはリアルなものじゃなくなっているということでもある。

何を言いたいかといえば、ネタにするには「歴史としてのリアルさ」が蒸発する必要があると思う、と。

例えば、日本では太平洋戦争を描く映画は続々作られているが「純粋エンタメ」のように作られたものは少ない。「信長狂騒曲」とか「戦国自衛隊」みたいな「純粋歴史エンタメ」としては作られていない。

たいていは「風化させてはいけない」などの大義が打ち出されている。出来事のインパクトの大きさ等もあり「エンタメとしてイジる」にはシビアすぎるからだ。

そうした「これをイジるにはシビアすぎる」という意識が「蒸発」して初めて「エンタメ」としてイジることができる。

それが(意外にも)韓国でも始まっているのかなと思う。
そんなことを思った。
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