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コヴェナント/約束の救出のyukarinのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.5
100キロの道のり
なにもなくとも、歩いて進むことは簡単ではない道のり
その道のりを、負傷して意識も朦朧として、自力でなんとかできないジョンを連れて、命を狙われ、車もほとんど使うことが出来ない状態でアーメッドは進む
何度も訪れる危機、夜の寒さ、ジョンを連れてうまく進めない場所、ひたすら乗り越え続ける
ようやくあと少しまで来たとき、水をがぶ飲みするアーメッドの様子が、その過酷さをものがたる

アーメッドはなぜそこまでするのか?
ふたりは友ではない
出会って間もない米軍の軍曹と通訳
多くの困難をともに乗り越えてきたわけでもない
お互いをよく知りもせず、多くを語り合わず、信頼に足るのかどうかを探っているような段階
それでも、アーメッドはそこまでした
彼だけならそこまでせずとも逃げ切れただろうに
見捨てたわけではないと、いくらでも誤魔化せただろうに
それでも、アーメッドはそこまでしたのだ

帰国し、日常に戻ったジョンは、夢にうなされながら、あの日々を思い出す
米軍に味方をするような通訳の仕事を通して、ビザを得られるはずだったアーメッドは、ジョンを助けたことで命の危険にさらされ、身を隠している
必死で、まるで気がふれたようにジョンはビザを取ろうとし続ける
そして、ついに、ジョンは、再びアフガニスタンに向かう
見つかったら確実に殺されるリスクを承知で
自分を助け、それにより自らと家族が命を狙われ、必死で逃げている恩人を救い出すために

忘れることなど出来ない
恩義がある
そう言うジョンをもしかしたら再び、今度は本当に失うかもしれないことを知りながら、送り出す家族

再会したふたりは多くを語らない
微笑み合うわけでもなく、ハグするわけでもなく、握手すら、肩を叩くようなスキンシップすらしない
それでも、ふたりの中の確かな絆が見える
その危険な道のりに互いの命を預け合うかのような絆

無事にアメリカへ向かうラストで、ふたりはやはり語らない
ただ、見つめ合う
でもそれで十分なのだ

ようやく長い長い道のりが本当に終わったかのように、見つめ合ったあと、天を仰ぐように見上げるジョンを見ながら、こちらの緊張もようやくほどける
涙は流れこそしなかったけれど、その瞬間、涙が目に溢れた
絆、恩義、情、そんな言葉で片付けられない、心を強く揺さぶって忘れさせないなにかが残った

けれど、米軍が撤退した後、多くの通訳と家族が命を奪われ、今もまだ身を潜めている人たちがいる、その現在進行形の現実を最後に目にし、終わっていないことも知る
たくさんのアーメッドが、まだまだいるのだと
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