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コヴェナント/約束の救出のmorettiのレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.0
わたしは量産型映画ファンですけど、今の今までガイ・リッチーの映画を観たことありませんでーす!
…でも、最初のロックストックなんとかはビデオで見たような…ゴロツキ顔のステイサムがゴロツキ役だったのが朧気な感じで。
タランティーノとかトレスポあたりの雰囲気イケてる90年代映画の中から出てきた監督でマドンナと一時期くっついていた苦労人…という雑な認識です。
 
だもんで本格的なガイ・リッチー映画にファーストコンタクトです!ガイさんコンニチワ!予告編が面白そうだったんで観てきましたよ。
 
すごくシンプルな映画なんですけど、助かるの?どうなるの?という緊張感でもってシンプルに楽しかったですわ。
尿意(油断してた)と鬼電話ガン無視(仕事中でした)の緊張感もありましたし、あとアフガンの実話かと思っていたので「こいつ最後死ぬんじゃね?」という予想もあって、久し振りに手のひらが汗でぐっしょりでしたね。
実話じゃなくって実際のエピソードをいくつか統合して創作したフィクションぽいです。
 
ご案内の通り、アフガン紛争での任務中に瀕死の重傷を負ったジレンホールを100キロ人力で運んで救出した現地通訳人がタリバンの賞金首となってしまい今度はタリバンに狙われる中ジレンホールが救う、というオハナシ。
 
これ、一見“戦時下の中で芽生えた熱い友情と約束のドラマ”みたいな映画だし、そう見ている人も多いような気もするけど、わたしはけっこうドライな映画だと思いましたよ。
 
ジレンホール演じるキンリー曹長とダール・サリム演じる通訳アーメッドというふたりの男のドラマには違いないけど、そこに友情のような心情的な繋がりはあんまりない、と思いました。
おたがいに整備工である共通点から多少の親しみは抱いているかもしれませんが、アーメッドが死に物狂いでキンリーを助けたのはなによりも自分と家族の為だし、自分を救出したことでタリバンの賞金首になってしまったアーメッドを救いにキンリーがアフガンに舞い戻るのは恩義と国の約束を履行するためだよね。
 
もちろんそこにお互いへの尊敬や好意はあるにしても、モチベーションがそれぞれ内側に向かっていて、そこが面白かったですね。シンプル&ドライ。

だから友情モノの暑苦しさは皆無で、無事にタリバン襲撃から離脱した後にキンリーとアーメッドの間には抱擁も握手もなく、お互いを慮るように視線を交わすだけ。
そこに作劇としてエモーションに溺れることのない、現実のアフガンでの出来事に対する冷めた眼差しが静かな怒りと共にあった気がします。
 
今までのガイ・リッチー映画の作風はなんとなく聞き及んでいますけども、これはタイトでスリリングな渋い映画になっていたと思います。
とくにアーメッドさんが活躍するミリタリーアクションからの逃避行の前半部は最高でしたね。ジャンル映画的な面白さが横溢しているし、脱出行のいやーな長さがきっちり描かれていましたよ。
中途半端なスローや心情主観カットは「…だせぇな」とは思いましたけど、おおむね満足。
 
プロットはともかくとして、キャラクターと感情のドラマは(シナリオ上は大味の可能性はありつつ)ジレンホールとサリムさんのそれぞれの身体性と演技でかなり膨らんでいた気がするし、シンプルなプロットの中の、ふたりの男の様々な相克が現出していて、この映画を豊かにしていた気がします。
友情みは薄いと感じたけれども、ふたりの人間味が150%でしたね。

アーメッドさんが100キロの逃避行の山越えのところで息も絶え絶えでしくしく泣きだすところは、まるで世の不条理に悔し泣きしているようでグッときましたことですよ。
 
あと意図したところかどうかわかりませんけど、銃撃戦のほかに近距離格闘というかナイフでの殺し合いがいくつかあって、その泥臭さと生々しさが、このジャンル映画寄りの戦争ドラマのアクセントになっていた気がします。
“人が人を殺す”という戦争の本質を娯楽に収斂しないよ、という気合ですね多分。
タリバン兵をひとり殺すんだけど明らかにこちらも削られている感じね、とくにアーメッドさん。
 
わたしはけっこうこの映画を褒めるスタンスですけど、間違いなくある種の大味さもあり、そこに批判が投げ込まれる余地もあるのかなとは思いましたね。
頭の悪い人には「アメリカ賛美」に映るかもしれないし、今も続くアフガン問題の歴史や深刻さや複雑さに対して描かれることが浅いとか言われそう。
ま深くはないけど、米国に協力したアフガニスタン人通訳の人たちにフォーカスしたことには大いに意味があると思います。
そこに「ガイ・リッチーのコヴェナント」(原題)と冠したガイ・リッチーの気概ですよ。
 
しかしわたしがジレンホールの妻なら(あらやだ❤️)「アフガン戻るなら離婚届にサインしてけ」くらい言いそうだけど、堪えて耐え忍ぶんか。と思いましたね。ジレンホールも家族を顧みずに行っちゃうほうがテーマ的にもアンビバレントでよかった気がしますけど、ホームランダーの胡散臭い笑顔(役としてはイイ奴)がよかったので、やっぱり満足です。
 
ちょっとはガイ・リッチーの過去作に食指が動いてますけど、実写のアラジンもこの人なのか…とりあえず安心のステイサムついてるやつから…

タリバン政権は海外のカメラを限定的に受け入れて「うまくやってますよ」アピールしてるみたいですけど、フレームの外では北朝鮮と同様かそれ以下です。
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