涼

コヴェナント/約束の救出の涼のレビュー・感想・評価

コヴェナント/約束の救出(2023年製作の映画)
4.2
 これは、二人の男の友情の物語ではない。人間が自分の受けた恩義に報いる物語である。

 本作の時代設定は2018年だから、ごく最近である。

 監督は、「アフガニスタン問題とアメリカ軍に協力したアフガン人通訳についてのドキュメンタリー」にインスパイアーされて本作を作ったという。
 だから、フィクションとはいえタリバンとの戦闘状況はリアルに描かれている。本作のように、アメリカ軍がタリバンから「潜入」する通訳に騙されることも多々あっただろう。

 そんな中、ジョン・キンリー曹長(ジェイク・ギレンホール)は、隊を救ってくれた通訳のアーメッド(ダール・サリム)を信用するようになる。

 ある時、タリバンとの銃撃戦で敗れ、負傷したキンリーとアーメッドの二人で逃亡する羽目になる。米軍基地までは100キロ。手押し車にキンリーを載せ山道を進むわけだが、これを延々と映す。アーメッドは時々叫んだりする。どう見たって無理だ、逃げ切れない、と思う。いくら通訳だからって、ここまで無理する必要は無いだろう、と思ってしまう。しかし、このシーンが本作の最も重要な部分であり、これを延々と映すことによって後々効いてくるのである。

 アメリカに移住する特別のビザを発行して貰えることを条件に、5万人のアフガン人が米軍の通訳を務めてきたという。アーメッドが通訳になったのはこれも大きな動機であろう。当然このような英雄的行為で米軍曹長を救ったのだから、家族も含めてビザを発行して貰えると期待するだろう。
 ところが、米軍は何もしてくれない。タリバンから指名手配されて、もっと苦しい状況に置かれている有様だ。

 一方キンリーはアメリカに帰還し、家族とともに平穏に暮らしている。しかし、アーメッドが依然アフガニスタンにいるままだと聞き、気が気でない。国のやる気の無い態度に怒り狂う。ジェイク・ギレンホールのこの怒りの表現が素晴らしい。「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」でも怒りを爆発させるシーンが印象的だったが、それを想起させる。

 アーメッドは、友情から米軍曹長を命がけで救おうとしたのではない。自分の家族もアメリカに移住できると思ったから、そうしたのだ。彼を救うことが、自分たちが生き残る唯一の道だと思ったからなのだ。
 なのに、アメリカは何もしない。キンリーの心にはアーメッドの恩義に報いることしか考えられなくなり、再び現地に行って救い出そうと考える。それは、友情からではなく、恩義に報いる一心なのである。
 この視点で貫いた本作はユニークであり、面白いと言える。

 主演のダール・サリムはもう一人の主演ジェイク・ギレンホールと遜色ないほどの良い演技を見せた。抑えめの表情が良い。

 ジェイク・ギレンホールの出演作品はこれで12本見たことになる。
 順位を付けると、以下の通りである。

1 遠い空の向こうに
2 コヴェナント/約束の脱出
3 ノクターナル・アニマルズ
4 プリズナーズ
5 雨の日は会えない、晴れた日は君を想う
6 ワイルドライフ
7 ナイトクローラー
8 複製された男
9 ミッション:8ミニッツ
10 ブロークバック・マウンテン
11 オクジャ/okja
12 サウスポー
涼