dm10forever

海辺の女のdm10foreverのネタバレレビュー・内容・結末

海辺の女(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

MyFFF駆け込み視聴の思い出しレビュー。

これはまた深い・・・
海の底のように深い内容ですわ・・・。
一見とっつきにくそうな作品ではあるんだけど、ラストまで見ていくとフンワリとだがアンナの不安や求めていたものの正体の輪郭が浮かび上がってくるような感覚。
嫌いじゃない。
これは長編で作ったとしても面白かったかもしれない・・・ただ、さすがにフランス映画なのでちょっと鬱々モードになるかもしれないけど。

物語は主人公アンナが一人で物憂げに海に浮かんでいる夢のシーンから始まる。
先に見た『港町マルムスク』とはまるで対照的な「深くて暗い海」。
う~ん、意味ありげ。

この夢の中で映し出されたのは「クラゲの大群に襲われて助ける求めるトマ(パートナー)と、その声を聞きながらも助けに行くことを躊躇ったアンナ」という描写でした。
夢占いではクラゲは「無意識の感情や空想、掴みどころのない恐怖、気付くことのない敵意」などを表すそうです。
ここで、アンナはずっとトマとの関係性に漠然とした不安を感じながら過ごしていたんだろうな・・ということが読み取れます。

そして疲れ気味のアンナを気遣ったトマの計らいで二人はトルコの避暑地へ旅行することになる。
アンナを置いてスタスタと先を歩き、地元の犬を見かけては写真を撮るトマ。
やがて二人が立ち寄った砂浜で、アンナがたまたま見かけて気になっていた小さな少女が行方不明になってしまうという事件に遭遇してしまいます。
(あの子は絶対に海で溺れたのよ!)
女の子の安否が気になって居ても立ってもいられなくなるアンナ。
しかしその場に居合わせなかったトマは(そんな事故は起きていないし、そもそもそんな女の子はいなかった)とまともに取り合おうともせず、アンナが疲れているからではないか・・・と違うところに気を使い出す。

どうしても真相が知りたいアンナ。
そんなことよりアンナの心の休養のためにも休暇を楽しむべきだと主張するトマ。

意見が食い違う二人は別行動をとることになった。

アンナは見ず知らずの土地で病院や警察など片っ端から確認に出向くが、やはりそのような事件は起きていないと言われ途方に暮れたアンナは、トマが待つ宿へは戻らずに一軒の賑やかなバーに立ち寄る。

そこで知り合うハカンという現地の男性。
彼は今日の出来事に戸惑うアンナに対し詮索も否定もせず、アンナの行動は正しいと共感してくれる。

「直感に従うことは大切なことだ」

ハカンは自分に起きている状況をありのままに受け入れる男性だった。
「僕も最近この辺に引っ越してきたんだ。「流れ」を変えたくてね」
「知り合いも居ない場所で孤独を感じない?」
「孤独を選んだのさ。指図する人はいらないし」
「恋愛はどうするの?」
「恋愛も単純ならいい。相手に期待しすぎないことだ」
「私はずっと恋をすれば幸せになれると思っていた」
「今は幸せなのかい?」
「・・・・」

アンナの中で何かが弾ける。

ただ普通に「幸せになりたい」と思って生きてきた。
でも、その普通が何なのかわからないというふんわりとした不安を抱えたまま、それでも誰かと恋愛をすればきっと不安は晴れていくと信じていた。
きっとトマは優しい人なんだと思う。
でも、アンナは自分自身に正直に生きようとしたとき、必ずしも誰かと一緒に居ることだけが自分の幸せに繋がるとは限らないということに気がついてしまったのかもしれない。

夢の中のクラゲの正体・・・
トルコについてからの自分の行動とハカンの言葉・・・。

アンナはトマに別れを告げ一人で夜の海に向かう。
そして何も身につけず海に入り、ただ生まれたままの姿でさざなみに身を任せて浮かぶ。

オープニングの映像と同じ構図(最初は水着を着けていたけど)なのに、全く印象が変わるカット。
何かから解き放たれたからなのか、自分自身を見つけることが出来た充実感からなのか。

もしかしたら、あの少女こそアンナの「内面の不安」の正体だったのかもしれない・・・。

アンナはあの後ハカンと付き合ったのだろうか?
・・・きっと付き合うことはなかったような気がする。
どちらともきっとそれは望んでもいなかったし。

映像はとても美しいのに、どことなく寂しさを感じる色合い。
でもそれが逆に「海」や「夜の街」などに鋭い輪郭を与えてくれていた。

どことなくほろ苦い感じがして結構好きなタイプの作品でした。
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