ネノメタル

きらっきらにぶちころしたいっ!のネノメタルのレビュー・感想・評価

4.8
無機質だけどどこかヒューマニズム溢れる松本映画の映像美とそこから垣間見える狂気の正体とは?

1.Overview
出演がほぼほぼ岡本崇×ぽてさらちゃん。のみという映画界隈では『ディスコーズハイ』でお馴染みの監督と出演女優のほぼ二人劇と言えば分かりやすいのだろうか。或いは彼らのコアなファンである私にとっては毎週木曜日の深夜に定期的に収録しているYouTubeラジオ番組「滅菌ラジオ」のようなゆる〜い感じのトーンが続くコメディかと思って油断して観てたら.....これが多いに予想の斜め上をいく展開で、さすが『みぽりん』『コケシセレナーデ』『極道系Vチューバー達磨』など一筋縄も二筋縄も行かぬ傑作を残してる松本大樹監督だと舌を巻いたものだ。なにせこの25分にも満たない短編映画なのに松本大樹特有のエッセンスが生きていたのだから。
今時点では全く今後の公開予定なども分からず生まれたての試作上映会段階という状況なので詳細は避けるが、途中まさかのまさかの名優、白澤康宏氏が演じる「シラサギ先生」というとあるマッドな役柄によってそれまで緩い会話劇みたいな感じだったのが突如ふわっと静かなる狂気を感じたのだ。ここでいう「狂気」とはホラー寄りではなくてちょっとサイコサスペンスじみた狂気に近いのかもしれない。
この感触は個人的には『みぽりん』というより『コケシ・セレナーデ』ラストのゾワっとした感に近い。
次節ではそのコケシとのシンクロに関してフォーカスしてネタバレ踏まぬ程度に述べていきたい。

2.Focus
この「コケシとのシンクロ感」には岡本祟氏演じる「もりっち」が舞台挨拶等や自身のバンド(ウパルパ猫)のライブMC等で時折みせる「取り留めのなさ」を基盤としたあのどこか掴みどころのないミステリアスなキャラクター(何度もお会いしてるのにすいません w、あ、ちなみに岡本氏もコケシ・コレクターで彼の映画にはコケシの桜井夫婦かってくらいコケシが出て参りますという余談も入れまぜつつ)が十二分に生かされている役作りの効果も非常に大きいのだけれど、今回劇伴を担当している片山大輔氏によって提供されたあの不穏な楽曲群による効果も非常に大きい。是非上映の際にはサントラなどを配信リリースして欲しいと思ったものだ。特にあのまーご(ぽてさらちゃん。)がある事実に気づいて割とマジになる展開(めっちゃ抽象的だけどネタバレなしレビューなので悪しからず)になるいわば本作の核となるシーンでのあのピアノを土台とした曲もとても美しい旋律でとても印象に残ったものだったし、あとぽてさらちゃん。の役(まーご)に関して言えば、関西弁がちょっと出る感じなど普段の感じに近くて、全体的なテンションは『ディスコーズハイ』の役柄要素も少し入ってる、みたいな丁度良い塩梅のトーンだったと個人的に思ったりもしている。
 あとつくづく私はこの松本大樹監督作品はラスト付近のあっと驚くストーリーの展開とか、キャラクターの濃さとか(ほぼ『みぽりん』じゃねえかw)インパクト面に焦点がおかれがちだけど、実はもうとても綺麗な映像を撮る監督なんだよなぁという点を実感した。どこか押し付けがましくなくて無機質なんだけど心地良くてどこか根底にヒューマニズム溢れる感じというか、そういう意味では本作は以前動画限定で公開されてた『みぽりん』のスピンオフ的な短編、『はるかのとびら』のもたらす「限りなく現実に近い異世界感」をも感じたりしている。
 更に本作はどこか本作に出演している岡本祟氏が監督をしている『世紀末ヘッドギア』とも核の部分でシンクロしてくる作品でもあるのだ。
時に人々のエモを掻き立て、熱狂させる楽曲とはどこか危険で、暴力性にも似た「初期衝動」に満ちてて抑えきれぬ感情の暴発から生まれるマグマのようなものなんだろうなと両作品を観て実感したものである。

3.What is ART?
本編冒頭で(「芸術は悲しみと苦しみから生まれる」)というイタリアの有名画家であるパブロ・ピカソの名言が引用されているが、正に絵画も映画も音楽ももはやアート全体としてこういう熱狂という起爆剤を苦しみや悲しみなどの感情という発火装置にぶち込んでこそ生まれるものなのかもしれない。
そんな思いで本作が今後劇場公開などを通じて数多くの人々にある種のenthusiasm(熱意)を持って受け入れられる事を祈って私の好きなピカソの名言で締めくくりたい。

It's the most import thing to create the enthusiastic situation.
「大切なのは熱狂的状況は作り出す事だ。」
(パブロ・ピカソ 1881-1973)
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