AKIRA

夜明けのすべてのAKIRAのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

【ティーチイン付き試写会:神楽座】
まず素晴らしいタイトルだ。観終わった後に鑑みると、これは"夜明け"のすべてだったんだっていうのが頭に浮かび上がってくる。「夜明け前が1番暗い」そんなセリフがあったと思うが、本作は彼らの辛さ苦しさの1番辛い時期であり、さらにもっと言えば、本作後は彼らに明るい時間がきっと待っているのだ(もしくは彼らはそう信じている)。暗がりの先に見える明るさが垣間見える素敵な作品だ。
PMSとパニック障害という僕にとっては身近でない(みんな隠してるだけかもしれないしそういう性質のある)精神的な病だが、エンドロールを見ると監修しているプロの方がおられるのでこれがリアルな姿だとすると、このような障害でなくとも周りに苦しんでいる人らがいれば、自分にはなにができるだろうと問われている(優しく突きつけられる)作品のようにも思えました。
心に残ったセリフ・シーンとして、山添の独白である「恋人や友達、同僚がいなくなっても〜」のところは中盤のペテルギウス(500年後の今に光が届く)の挿話と重なって見えたし、藤沢の「お互いがんばろう」は一歩相手の領域におこがましくも踏み込んだ勇気あるセリフで、作品としても重要な転換点のように思えました。厳密に言えば、その直前での明暗際立つカットが重要なカットだと思って公園の高架下のような場所で橋の暗がり(背中が真っ暗になる)でのまるで鬱な世界に入っていく山添、その背中を追いかけるか逡巡する藤沢そして追いかけるのあたりが転換点かもしれない。
なにより本作は宇宙についてのエピソードが良い味を出していて、まるで2人を暗示しているかのようだった。上に書いたペテルギウスもそうだし、名前は忘れてしまったが"孤独な星"についてや、太陽と地球の関係(なんて地球は自己中なんだ!)は、まさに比喩のようだった。辛さというのは孤独(または被害者意識からの自己中)との戦いでもあるけれども、周りに誰かが陥っている場合にはそこで人としての真価が試されるのかなと思う。まさに本作の登場人物たち、栗田科学や山添の前職の上司のように。
それこそ、渋川清彦さん演じる山添の前職の上司が、山添から栗田科学に残ると聞いた時に涙ぐむ場面には感動した。がんばれとも言わず、ただ星のように見守っているからこそ泣けるのかもしれない。心の底から山添を思いやっている純粋さに胸を打たれる。
山添の前職の上司もそうだし、栗田科学の社長も、集団療法に参加(2人はそこで出会い山添を頼んだ?)しているところから思っても、孤独に悩まねばならない辛さを当人が知っているからこそあれだけ無理に啓発せず踏み込むこともせず優しいのかと思う。
あとはクスッと笑えるコメディなやり取りの場面もかなり面白かった。藤沢の過剰な神経質さ(家の本棚もPMS関連ばかり)と山添のプライドは高く人見知り(ビデオ通話での栗田科学の人へやPMSを軽んじた発言。そして本棚は経済書など元エリートなのだろう)だが心許せば素直、そんな2人の打ち解け合うやりとり、特に、散髪失敗(だが成功?)での山添の吹き出しにより関係性の壁が崩れ落ちるところからも、人と人の狭間に立ちはだかる壁(ATフィールドのようなもの)を溶かすのはいつだってコメディや笑顔なのかもしれない。
本作からは、周りに辛い爆弾を抱えてしまった人がいた場合、自分に何ができるのか自分の思考に深潜して、その結果なにもせずただ見守るだけでもいいし、人や場合によっては藤沢のように(周りから見たら余計なお世話レベルでも)真剣に考えた結果これなら相手が喜ぶかもしれないと小さなアクションを起こすのも自分が正しいと思った先ならたとえ失敗(漬物を渡したり笑)してもいいかもしれないと暖かい気持ちになった。

トークイベントでの三宅監督の言葉としては、山添がロンドンに勤務する彼女に別れを告げられるシーン(文脈でフラれるのが分かる)をカットしたことについて、「メインじゃないからそれ以上描くことは要らないと思ってカットした」っていうのが心に残った。"メイン"じゃないからだ。よりいっそう、描きたいもの魅せたいものをしっかり撮られる監督だと思い、作品に込められた意図を探り当てる(それは監督の意図と離れ自分にとってのみの発見でもいいのかもしれないが)ことが作品からできると思い、これから今後の作品や過去作の再鑑賞を観ていくにあたっても信頼できる映画監督/映像作家だ。今後の新作も期待していきたいし楽しみだ。


スコアは普段つけないのですが、Filmarksへの感謝と三宅監督のトークイベントという体験を含めて5.0点をつけさせていただきます!
AKIRA

AKIRA