Yukenz

夜明けのすべてのYukenzのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.9
filmarksのティーチイン付き試写会にて。原作は未読だが、本屋大賞を受賞した瀬尾まいこ氏の作品なので期待大と思っていた。

この映画は決して楽しく心踊るような作品ではないし、何なら導入部は結構見ていてしんどい展開なのだが、肝を据えてじっくり見ていくといつの間にか心の奥底がじんわりと温かく感じ心地よくなっているから不思議だ。

障害を持つ主演2人の演技がいい具合に主張せずに周囲に溶け込んでいるし、栗田科学の居心地のよさは三宅監督が言う通りまるでユートピアのよう。痛みを知った人たちは他者の誰をも傷つけることがなく、その優しい所作は特に障害を持つ人たちに対する求心力となる。

時折ふと画面に映し出される光を帯びた美しい街の風景によって副交感神経からアセチルコリンが染み込んでくるようで心が落ち着く。

本作によってどれだけの人たちが救われるだろうか。
今まで私はこのような障害を持つ方たちに向かい合った時間はなかったように思うが、この機会は今後の人生において一種の転換期になったと感じている。ましてや突然自分が同じような症状に見合う可能性だってある訳で。

都会で忙し無く暮らしていると忘れがちだが、栗田科学が本来人類が目指すコミュニティのあるべき姿なのかも知れない。従業員の仕事への向上心が皆無などと批判する事は簡単だが、居心地の良さが当たり前でそこに魅力を感じていないなんて、きっとストレスなんてないのだろう。健康もそうだが、失うまでその有り難みに気付かないものは確かにある。だから絶対こんな会社があちこちにあっていいのだ。

終盤の移動式プラネタリウムのシーンには痛く感動してしまった。上白石さんのナレーションがもの凄く響く。上手いなぁ〜
作品の閉じ方にも希望を感じる。遠い空の下で優しさは繋がっている。

本作が多くの人に見てもらえたらと願う。是非若いうちに中学校や高校での視聴を推奨してほしい。関係者の方は何卒ご検討ください。
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