たくみ

夜明けのすべてのたくみのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
【夜は夜明け前が一番暗い】
Filmarksの三宅唱監督のティーチイン付き試写会で鑑賞。
自分では思いつかないような疑問が質問されたりするので非常に有意義な時間でした。

PMS、パニック障害を抱えながら生きる男女2人のお話です。
映画の描写でフラッシュバックするかもしれないので、同様の症状がある方はそういった描写がある事をふまえて鑑賞を決めた方が良いかと思います。
それが大丈夫な方には是非鑑賞していただきたい作品です。
『ケイコ 目を澄ませて』で完全に掴んだ三宅昌監督が描く日常の暖かさが素晴らしかったです。

以下ネタバレを含みます。公開前でもあるのでお気を付けください。






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優しい映画でした。

この映画は「病気を克服する事」の大事さを謳うのではなく、「そんな時でも誰かのためになれる」事を描いているのがとても良かったです。
作中、病気に苦しむ2人が明らかに明るくなる瞬間があります。
それは相手のためにアクションを起こしたとき。

作中の藤沢(上白石萌音)、山添(松村北斗)は序盤、受け入れてもらえるわけがないと壁を作っているように映りました。
あの壁がある状況下では完治って本当に難しいです。

そうした中でふとしたきっかけでお互いが似た悩みを持っている事に気付く。
その時の藤沢の行動が良かったです。あれはその人が元から持っている優しさだと思います。
あのくらい強引にしてもらった方が楽な事もあるし、馬鹿出来る時間って実は求めていたりします。
周りのサポートもありつつ、徐々に壁を取り払っていく2人。
この過程を包む優しい雰囲気がとても好きでした。

そんな2人が「プラネタリウムを成功させる」という目標を向かって終盤まで駆け抜けていく構成も良かったです。
原作未読ですが改編されているらしく、おそらくこの改編は良いものになっているのではないかと思います。
希望に満ちたラストを三宅監督の武器である16ミリフィルムで映し出す。
本当に優しい映画だったと思います。

この映画は雨で始まって雨で終わります。
最初は曇天の中で叩きつける雨の中で苦しむ藤沢が映されます。
しかしラストは天気雨の中、日差しと雨に優しく包まれた藤沢が歩き出すという終わり方をします。
とても希望に満ちたシーンだったと思います。

万人が褒める映画にはならないのかもしれませんが、自分にとっては大事な作品になりました。
公開したらもう一度観に行きたいと思います。

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【その他メモ・独り言】
PMSもパニック障害も、障害を抱えている事が他人に伝わりづらいものだと思います。
だからこそ何度も悩むし自暴自棄になり負のスパイラルに入ってしまう。
治療する間も、優しくされすぎるとそれはそれで相手に申し訳なさを感じてしまう。
ワガママかもしれませんが、本当にこんな感じです。
普段通り接してもらうのが一番ありがたかったりします。

というのも自分も程度は違えど当事者だったので自分を重ねざるを得なかったです。
序盤が見てて結構苦しかったです。
仕事が上手くいかない感覚や、起きる事も出来ないし起きたとて何も出来ない。
病名が付いた後も、明らかに気を遣わせている雰囲気になるのがわかるから誰ともご飯に行きたくない。
瀬尾さんの経験なのか取材から汲み取ったのかわかりませんが嫌と言う程リアルだった気がします。

栗田化学従業員の方たちの様な理解ある会社は少ないと思います。
でもこうやって接する事が答えの一つなのかも、と鑑賞した人に思ってもらえたら良いのかもなと感じました。
監督がティーチインでこんな事仰ってました。

「栗田化学がユートピアのように映ってはいけない。栗田化学を離れても活躍できる場所は世の中にあるという終わりにしたかった。」

本当にその通りだと思います。
この言葉で監督がどれだけ真剣に映画を作っているか伝わりましたし、当事者に寄り添う心を忘れていないのかも感じる事が出来ました。
たくみ

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