ごんす

夜明けのすべてのごんすのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.9
山添くんのパニック障害も藤沢さんのPMSも自分の力でコントロールすることができない。
その二人が働く栗田科学という職場は助けが必要だと思えば自然と力を貸してくれる素敵な職場で今の世の中では稀有な場所だと感じる。
しかし同時にあるかもしれないと思わされる場所だった。

この映画を観てると人間って誰も一人で生きてきていないんだなと当たり前だけど強くそう思う。
自分は人付き合いはあまり得意ではないけれど人と喋るのが嫌いなわけではないし少し喋るだけで元気が出たりする人もいるし改めてお喋りって良いなと思った。

人が人を思うこと、その瞬間を切り取るのが見事な映画でその時は受け入れられない優しさや気遣いもほんの少しのきっかけで一生の宝物になったりする。
「パニック障害の人って電車乗れないのか…そうだ乗ってない自転車あげよう!」って急に家に来られたらお節介で結構困ってしまうけれど映画観ているとあの自転車が段々と愛しくてたまらなくなる。
藤沢さんが山添くんの家で残り少ないポテチの袋を逆さまにして食べるやつは人生の宝物ってこういうことなんじゃないかと思った。
モノローグが過去作に比べ印象的でテーマらしきものも台詞でも語られるのが監督の作品としては意外だったけど全く嫌じゃなかった。
この物語は言葉は大事な気がする。
『ケイコ 目を澄まして』でも思ったけど生活音や街の音がハッキリ聞こえたり電車や空も見覚えがあり自分が生きている世界と地続きに感じる。

山添くんと藤沢さんが企画運営の仕事をする移動式プラネタリウムは映画館と非常によく似てると感じて、自分が行った映画館も学校帰りと思われる松村北斗ファンの若い子達と三宅監督の新作だからとりあえず映画館で観ないと!という私のようなおじさんがそれぞれ違う目的で集まって同じ映画を観ているのが素敵だった。
皆同じ場所に集まって日常から離れ、映画が終わるとまたそれぞれの日常に帰っていく。
この映画で感じた他者への思いやりの部分などは忘れたくないけれどまた日常がそれを許さないんじゃないかという自分もいて、でも少しずつ映画から受け取ったものを日常に反映できたら良いなと考えている。

上白石萌音って何であんな食べ歩き似合うんだろう。
ごんす

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