mさん

夜明けのすべてのmさんのネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

劇的なことは起こらないし
こう言うテーマを描く上で起こらないのは必然なんだけど、それでもずーっと見ていたいと思える、安易なサスペンスとか、恋愛展開とか、別れとか、そういう劇的なドラマがことごとく無いのにこんなにも惹かれてしまう。街の上を見た時に似た感覚を覚えた。
どちらかと言うとあっちはずーっとこのまま続いててほしいだけど、こっちはなんかいつの間にか終わったなって感じだった。

まず役者の演技がすごい。
藤崎さんは怒った時とそうで無い時の
二面性がすごいと思った。もっというとその切り替えの瞬間。

あとみんなカットが変わってもずーっと
演技というか行動を続けている感じがした。
ラストシーンのワンカットとか。


今回持病を持つ生きづらい人々という
マイノリティのお話だけど
一歩進んでるのは
その人たちを一括りにするのは違くて
その人にしか苦しみはわからないし
比較もできないし、当人しかわからないことがあるということ。だからといって放っておくんじゃなくて、大事なのは相手のことはわからないけどそれでも向き合うってことなのかなと思った。
ただ、こっちは相手を傷つけたくなくて
かつ、相手の苦しみは当の本人にしかわからないとなると、マジョリティの人がマイノリティの人とコミュニケーションをするのはかなり厳しいのかなと思った。

逆にマイノリティの人たち同士だからこそ
めっちゃ相手に気を遣わずに会話できるっていうシーンが印象的だった。
相手のことはわからないとは言いつつも、マイノリティというところでどこかが通じ合ってるのかなと思った。
(ただ、マイノリティの人たち同士でしかそういうコミュニケーションはできないんじゃないかなって思ってしまったりもした。)

極限まで抑えめな演出が素晴らしい。
音楽は多分最初だけレパートリー多めであとはずーっと柔らかい音楽がずっと流れてる。
症状が発症するシーンも全く音楽はないのもいい。

あと脚本でもひたすらに
劇的な要素を排していくのがいい。

恋愛要素もないし。別れもあっさり。
プラネタリウム本番の日に症状が発症するとかもない。でもだからこそ日常に地続きの映画である気がして、彼らがどんな病気を持っていたとしてもこれくらい普通に日々は過ぎてくしそれがリアルな気がした。

あと冒頭5分だけで深刻なトーンの映画にしてあとはひたすらのほほんとする構成が凄いと思った。最初のバス停で落ちる藤沢さんをスルーしていく人とか、どんどん彼女が追い詰められていく過程はこの病状を扱う上で少なくとも間違ってないトーンだった。

だけど病ってそういう苦しくて辛い時だけじゃなくて、発症しない時の何でもない普通の日々ももちろんあるわけで、
少なくともその病状に苦しみながらも立ち向かっていくみたいな映画にはならず、むしろこの病と共生していく。治療するのではなく共に生きていく。だからこそああいう日常の映画のようなトーンになるんだと思うし、今までにない映画だと思った。

マイノリティだからこそマジョリティからしたらすごい存在が劇的で自分達とは全く違った生活をしている、全く違った世界が見えているみたいな映画じゃことこの病気に関してはないのがすごい良かった。

だからこそ気を抜いてみたら急に何の脈略もないのに病状が発症するので、のほほんとしたトーンだからこそすごいああいうシーンが印象に残るし、突然感が強くなっていいと思った。それがサスペンスになるというか。

ただ一瞬出てくる人の周りに問題を抱えた人が若干多すぎるなと思ったのと
最後の夜についてのメモが少し劇的すぎた気がした。

山添くんが満を持してドキュメンタリー撮影に参加するんだけど、そのいいところがこの会社ってよりかは完全に藤沢さんのことについて喋ってて、だけど、だからこそ他の人にもより深くコミュニケーションしていけるようになったのがわかってよかった。

最初の雨が絶望だとしたら
最後の雨は暖かい希望のようだった。

ずーっと続いていくいい映画だった。
mさん

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