極黒の女子中学生

夜明けのすべての極黒の女子中学生のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.7
タイトルインでブチあがった。日常で自分も何度か目にしたはずの光景なのに、何故ここまで新鮮に見えるのだろうか…
あと三宅唱同様に厚着をする女性が好きなので、今作も冬映画でノレた。

死者の肉声に想いを馳せる映画といえば『SELF AND OTHERS』か『世界の中心で、愛をさけぶ』をすぐに想起してしまう。
テープに収められた音声の主は松村北斗とは面識のない上司の兄弟。彼から発せられる声は悲哀やノスタルジーを含まないひょうきんな声で、テープを聞いた松村北斗は休日の誰もいないオフィスで笑みをこぼす。
職場見学にきた中学生は映像や音声で記録を残し、古代の人々は宇宙に輝く星々から発せられる光を結び星座として後世に伝承するなど、方法は時代で変われど人は常に記録を続けてきた。
三宅唱も『無言日記』シリーズで日常を撮影し、『ワイルドツアー』ではカメラを撮る子どもたちにレンズを向け、『ケイコ〜』では母親が痛ましいボクシングの試合に目を背けながらも写真を撮影するなど、登場人物たちに何かしらの理由で記録をとらせている印象を受けるが、今作では松村北斗がテープに記録された内容を書き起こし、それを観客向けに上白石萌音が添削をする。まるで撮影された映像が編集などの介入によりブラッシュアップされていく映画制作の過程のようにも捉えられる。

松村北斗と上白石萌音の2人だけの空間での会話も心地良い。お互いの背負った病気を理解しようと本を読んだり、時には病気を茶化しあったりなど、2人の間だけで許されるノリを覗く箱庭的楽しみ方もできる。
基本的に松村と上白石の視点でカメラを置き、松村と上白石がいない職場を撮ることを省略しているのも名采配。2人を慈しんでいるか、煙たく感じているかをフィルムに収める必要は決してないし、同僚が良い人だらけなのは疑う余地もない。

上司の兄弟の仏壇の前で、三石研以上に黙祷を捧げるところでかなり涙腺にきた。職場の人たちにたいやきを買うところでもやばかったが、面識のない故人にすらここまで寄り添えられる人間性に泣ける。
松村が自転車に乗り下手へフレームアウトし、野球ボールも手前にアウトしていくラストショットにも痺れた。YCAMのインスタレーション作品しかり、つくづくフレーム外に広がる世界を思い遣る監督だ…