こーたろー

夜明けのすべてのこーたろーのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
3.5
障害を抱えている同僚の2人があるきっかけを機に交流を深めていく話

全体的な感想としては良かった点も気になる点もある作品だった。個人的に一番気になった点は、映画冒頭で藤沢が抱えてるPMSのことやそれを抱えているが故の苦悩を全部台詞で説明してしまっている点だ。これは小説原作の作品を映像化する時に起こりがちな現象で、原作で文章によって表現されていた主人公の苦悩をそのまま実写のキャラクターに語らせるのは確かに一見すると原作の良さも殺していなくて良い表現だと考える人もいるかもしれない。けれども自分はやはり映画で表現する以上は小説原作の物であっても説明的なシーンは極力省いて、映像とか演技で人物の葛藤とか苦悩を表現して欲しかったなと感じた。

一方で良かった点もすごく多かった。ストーリーに特に大きな転換とかカタルシスがある訳ではないけれど、障害を抱えている人だけが辛い思いをしているみたいな御涙頂戴物語にしていなくて別に障害を抱えていない人でも身近な人を亡くした悲しみだったり後悔を抱えている描写があって、誰しもがそういった感情を抱えて生きているんだって主張いるような映し方がとても好きだった。
主人公2人も劇的な成長を遂げたり、傷害を克服する訳ではなく、ただただ日常を少しでも自分らしく送れるために2人が協力関係になる経過が必然的に淡々と描かれている所もとても良かった。
音楽も主張しすぎていないところが物語にマッチしていたし、プラネタリウムの上映会の場面で音楽が止まって静寂に包まれる所は自分も上映会に参加している気分になって没入感が凄かった。

映画のラストで人間の感情とは無関係に地球は自転と公転を繰り返して、その度に朝と夜が交互にやってくるといった内容の台詞が一番この映画で心に残った。障害を抱えていることでどのように生きていけばいいかわからなくなっていた主人公たちの複雑な感情を夜に喩えていて、自分の存在意義すら疑う時があったとしても必ず朝がやってきて地球と同じように状況は好転していくんだといった前向きなメッセージをこの映画から受け取った。