ぶみ

夜明けのすべてのぶみのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
いつか夜明けがやってくる、その時まで。

瀬尾まいこが上梓した同名小説を、三宅唱監督、松村北斗、上白石萌音主演により映像化したドラマ。
それぞれ、PMS(月経前症候群)とパニック障害を患う二人が、同じ職場になったことから交流を深めていく姿を描く。
原作は未読。
PMSにより月に一度イライラが抑えられなくなってしまう主人公・藤沢美沙を上白石、パニック障害を抱えるもう一人の主人公・山添孝俊を松村、二人が勤める栗田科学の社長を光石研、藤沢の母親をりょうが演じているほか、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、久保田磨希、足立智充、宮川一朗太、丘みつ子等が登場。
物語は、藤沢が栗田科学に転職、山添と出会い、お互い同志のような気持ちが芽生え始める姿が描かれるのだが、恥ずかしながら、PMSなる言葉があることは初めて知った次第であり、女性ならではのその症状は様々なのだろうが、男性の私には全く想像がつかないもの。
普段は柔らかい物腰と笑顔を見せるのだが、その時期になると、表情も言葉もまるで別人となってしまう藤沢を上白石が自然な演技で体現しているのと同様、パニック障害により、常にどこか不安を抱えているような雰囲気を携えた山添を松村が好演しており、その二人のやりとりは、全く違和感なし。
何より、時々どこまでが台詞で、どこまでがアドリブなのかわからないぐらいであり、私的には、髪を切るやりとりが微笑ましく、ツボった次第。
作中で、何か劇的な展開があるわけではないが、変化のない日々はない日常が綴られており、かつ木漏れ日の光のような柔らかさが感じられる映像は、現在も上映中であるヴィム・ヴェンダース監督『PERFECT DAYS』との共通項を感じると同時に、生活音が耳に届いてくる様は、監督の前作『ケイコ 目を澄ませて』譲りであり、監督らしさが溢れていたところ。
また、説明的な台詞は、藤沢の独白という形式に委ねられており、それ以外は行間を読ませるようなことも多々あるのだが、そんな中でも、二人の勤務先である栗田科学の事務所に掛けられているカレンダーで、何気に時間の進行を示していたり、跨線橋の向こうに遠く聳える富士山に雪がかかっていたりと、説明はなくとも季節感が映像から滲み出ていたのは、細部まで計算された映像であることの証左。
加えて、もはや邦画では、柄本明や津田寛治同様、欠かせない存在となってきている光石や渋川が、本作品でもいかんなくそのバイプレイヤーぶりを発揮していたのと、先日観た庄司輝秋監督『さよならほやマン』で抜群の存在感を示していた呉城久美が、登場シーンは少ないものの、しっかりと脇を固めていたのは見逃せないポイント。
公開初日、私以外の観客は見事に女性ばかりという、かなり場違い感が半端なかったものの、PMSやパニック障害は、生きづらさや心の引っかかりを具体的に表現した例でしかないため、性別関係ないテーマとなっており、自分の体なのに思うようにならない主人公が変化していく様を、安易な恋愛や友情ものに頼ることなく描き出し、その二人を見つめる周囲の人々の眼差しも、これまたキャストが見事なまでの自然体で演じている反面、内田慈演じる精神科医が、「ネットで簡単に手に入る情報は、声の大きい人のものばかりだから」と、何気に社会の核心を突くような台詞を吐くのも印象的であったとともに、何気に長回しによる日常風景を重ねたエンドロールも素晴らしく、監督の細部まで計算尽くされた映像美に、鑑賞後も酔いしれることができる良作。

そして、新しい夜明けがやってくる。
ぶみ

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