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夜明けのすべてのlastnightのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.6
「ケイコ 目を澄ませて」を観た時に、これは居場所についての映画だと思ったが、「夜明けのすべて」もまた居場所についての映画だと思った。

三宅監督の優しさは執拗にカメラで被写体を追わないところにあると思っていて、「夜明け」で言えば渋川さんが息子にハンカチを渡される場面。ハンカチを渡された瞬間、これ以上カメラは追わないというかのように、ある意味中途半端なタイミングでカットが割られる。その後のハンカチで涙を拭う姿まではあえて描かない。例え映画であっても執拗に人物の内面を曝そうとする事はしない。この奥ゆかしく優しい眼差しがあるからこそ、映画の中に登場人物の居場所が作られるのだと思った。この渋川さんのシーン、松村くんのあの台詞からの前述の流れ、彼が自分の居場所に誇りを持つことができ、渋川さんが感極まった瞬間、自分の涙腺も崩壊してボロ泣きした。

逆に必要以上に多い序盤のモノローグは、観客に対して物語の間口を広くして誰も置いてきぼりにさせない優しさがあったし、髪を切るシーンはある意味サービスカット?で場内に心地良い笑いが広がった。

「Playback」公開時に今は無き吉祥寺バウスシアターに観に行った自分としては、ケイコに三浦誠己さんが出て夜明けに渋川さんが出て、映画好きが好きな名俳優を主演に据えた映画から10年経ち、間口を広くした映画を撮るようになった今でもバイプレイヤーとして彼らが出演する事自体に、俳優と監督の信頼関係的なものを感じて恐縮ながら感慨深かった。そして恐らく、居場所三部作の最後はムラジュンが出るのだと思うと楽しみでしょうがない。
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