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夜明けのすべてのtakaeのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
“夜明け前がいちばん暗い”
“The darkest hour is just before the dawn”

PMS(月経前症候群)とパニック障害。
その辛さがなかなか他人には伝わりづらく、理解されにくい症状を抱えた2人の物語。

月に1度、生理前の数日間、PMSのせいでイライラを抑えられずに感情的に周囲に当たり散らしてしまう、上白石萌音演じる藤沢美紗。
パニック障害のせいで前の会社を退職し、彼女のいる職場に転職してきた松村北斗演じる山添孝俊。

ふとしたことから、種類は違えどそれぞれが辛さを抱えながら生きていることをお互いに知っていきます。

第一印象はあまり良くなかった2人。
だけど、少しずつ、自分の心や体、辛い症状はコントロールできなくても、相手を助けることはできるのではないかと思うようになる。

この2人の、恋人でも友達でもない、同志のような関係がすごくすごく良かった。

相手を助けたいって、時にお節介みたいになってしまうこともあるけれど、押し付けがましくなく、本当に自然に少しでも相手が楽になれれば、気分良く過ごすことができればと、無理なく自分のできることをする。

ただただ、なんてことのない話をしながら歩く職場からの帰り道。
一緒にいても全く気を使うことなく自然体で、何時間だって安心して一緒にいられる、そんな関係。
互いに向き合って見つめ合うのではなく、同じ方向を見ながら並んで歩いていくような。

自分の辛さを打ち明けられる存在、一緒にいて支え合える理解者ってそう簡単にできるものじゃないと思うから。そんな2人の距離感と空気感が見ていて本当に心地よかった。
人を寄せ付けずに壁を作っていた山添くんの表情が少しずつ柔らかくなり、自ら人と関わろうと変わっていくところがまたいいんだよなぁ。

そして、2人の周りにいる人達の優しさとあたたかさが胸にしみる。

病気とか病気じゃないとか関係なく、それぞれがそれぞれの辛さを抱えて生きている。
夜になると、その暗闇に取り込まれてしまうように心がどんどん沈んで溺れそうになることもあるけれど、夜明け前が一番暗い。

自分が誰かの力になりたいと思う気持ちや、自分を想ってくれる誰かの優しさに救われながら、きっと少しずつ夜は明けてくる。
どんなに辛くても明日は変わらず容赦なくやってくるけど、その日々はきっと同じように見えて少しずつ違うはず。

暗闇の先にある希望の光を感じさせてくれるような、あたたかさと優しさに溢れた本当に素敵な作品でした。

主演の2人の醸し出す空気感が本当に良くて、2人のその声が耳に心地良くて。
そして、光石研さんのあったかさよ...!!もう顔見ただけで泣ける。

16ミリフィルムのぬくもりや街の喧騒、日常の風景。そういうものもすごく美しくて、やっぱり三宅監督の撮る映像、すごく好きだなって思いました。

劇的な展開があるわけではないけれど、観ている間中ずっと涙がこぼれて、その涙がすごくあたたかかった。

観に行けて本当に良かった。原作も読んでみたくなりました。
ご興味ある方は劇場でぜひ。
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