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夜明けのすべてのjazzyhalのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
言葉にならない。
エンドロールが訪れた時、
じわじわと感動の波が寄せては引いた。
決してお涙頂戴の映画ではないが、
感動の波が静かに、
しかしとても強く心の中で波打っている。

こんなに優しい邦画が
近年あっただろうか。

最大限の賛辞を送りたい。
監督に、主演の2人に、そして全ての登場人物とこの映画に携わったすべての人に。

この映画を劇場で観ることができる人は幸せである。

この優しい映画を誰かと共有する事ができ、
そして、
あなたの夜もいずれ明けるかもしれないことがわかるのだから。
劇場では、思わずニヤニヤするシーンで皆が笑い、ぐっと涙目になるシーンでは
同じように誰かが鼻を啜る音が聞こえた。
実に単純な事だが、場を共有できる喜びに溢れる。
この場の共有というのが本作にとっても重要なことの一つであろう。

エンドロールの最後まで見逃せない作品だが、
私が特にハッとさせられたのは、
キャッチボールの最後の球が、
受け取り損ねられて、画面のこちら側へと
ふいにやってきたところだ。

あぁこのボールをとるのは、投げ返すのは、
私なのかもしれないと、とても自然に思えた。
あたかも自分が栗田科学の場の中にいるように。

この感覚こそが本作の素晴らしさであり、
何ものにも耐え難い温もりと優しさで、
観賞者を満たしてくれるのだ。

帰る道すがらの景色が少し違うように感じたというレビューが殺到している。
そっと心を押されたような。
背中をトントンしてくれたような。
私もそう感じた1人で、
劇後の余韻にひたりたくて、
映画館から家までの約6キロの道のりを
公共交通ではなく、歩いて帰ることとした。

家に帰って、思わず衝動的に買ったパンフレットを読みこみ、藤沢の母が(我が叔父と同じ)パーキンソン病だったことに気づいた。

登場人物のそれぞれに陰りがあり、
何かを背負って生きているが、
それは鑑賞者にとっても同じこと。
大なり小なり人は何かを背負って生きていて、必死で普通のフリをしている。

しかし、
この映画が素晴らしいのは、
繰り返しとなるが、
鑑賞者の心の真ん中に、
すーっと温かいものを
灯し続けることだ。

2024年のベストかもしれない、
いや、近年の邦画の中でも、
ベストかもしれない。

今観るべき映画である。
我は友を得たり。
jazzyhal

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