Jun潤

夜明けのすべてのJun潤のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
2024.02.13

上白石萌音×松村北斗×三宅唱監督・脚本
『君の名は。』と『すずめの戸締まり』にてそれぞれ声優を務めたという不思議な共通点を持つ2人が実写邦画にて共演。

PMS(月経前症候群)に悩む女性、藤沢。
ストレスによる人間関係の不和、薬の副作用による急激な眠気が遠因となり、新卒で入社した会社を退職して5年、彼女は栗田科学という小さな工場で働いていた。
その工場に出向してきた後輩の山添に対し、最初藤沢は人間関係が苦手という印象しか抱いておらず、些細なきっかけでストレスが爆発し強い口調で当たり散らしてしまう。
そんな山添は、パニック障害を抱えており、通院と服薬が欠かせなかった。
ある日藤沢が山添のものと思われる薬を拾い、直後に彼が発作に襲われたことから、彼の病気のことを知り、彼女も自身が病気であることを打ち明ける。
PMSとパニック障害、異なる病気の違う症状に悩む一組の男女と、彼らを取り巻く人たちの、暖かく優しい人同士の繋がりの物語。

今作と同じ三宅監督作品『ケイコ 目を澄ませて』でも感じましたが、主要登場人物だけでなく、作中に出てくる全ての人が優しいんですよね、嫌味が全く無いというか。
残念ながら現実ではこうもいかないため、甘えだとかみんな経験してきただとかの根性論で流されてしまいそうなPMSやパニック障害などの症状に対し、振り回されることもあるけど、みんな受け入れて許してくれていたこと自体にフィクション感が溢れていて、逆にそれ以外の全てにリアリティがありました。
演技の方もそういった作品の雰囲気とマッチしていましたね。
最初のモノローグはおや?と思いましたが、それ以降は松村北斗と上白石萌音の表情や仕草で病気に振り回されていること、病気のことを気にして生活していることが伝わってきました。

男性側からすると生理のことも、その個人差も、より重い症状についても、時々話に聞くだけで想像することなんてできませんが、まず改めて感じたことは生活や性格と同じで個人差があるということですね。
藤沢と同じように症状が重くて病名を告げられた人もいれば、病名もなく重さに悩む人、症状が軽く悩みが少ない人、僕の周囲の女性も含めて本当に色んな人がいるんだと思います。
一つ、個人的に今作を鑑賞するにあたって注意して欲しいというか、注意が必要だと感じたことは、病名は免罪符ではなく最後の切り札で、生理前でイライラするからといってなんでも言ってなんでもしていいわけではなく、それは原因の一つにしかすぎず、周囲の人に100%理解してもらうことは不可能なんだから、藤沢のように事後フォローとか、思いやりの部分などは忘れてはいけないんだと感じました。

これも個人的な話にはなりますが、僕はどちらかというと山添側の人間で、日によって気分が全然違って、やりたいことができない、動かなきゃいけないのに動けない日もあるし、病名は告げられているものの、だからと言ってそれを最初から盾にするわけじゃないし、どうにもならない時の最後の切り札として逃げる理由に使わせていただいています。
それを理解して受け入れて、支えてくれる人もいれば、全然理解してくれない人もいます。
そして今作を観て改めて感じたのは、自分が病気だからといって症状の同異に関わらず他の病気の人のことがわかるかと言われると決してそうではない。
でも、山添の言っていた通り、「助けられることは、ある。」
それは自分から周囲の人に対してもそうだし、周囲の人も何もできないわけじゃなくて、自分のことを助けてくれることもある。
その根底には、病気だとか個人差だとかよりも深い位置に、人と人同士が思いやり合う繋がりがあるんだと思います。
忘れがちで、実践できないこともあるけれど、時々思い出して、自分の行動を省みる機会ってやっぱり必要だなぁと感じられる作品。
Jun潤

Jun潤