Tommy

夜明けのすべてのTommyのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
あの系統の薬にお世話になってた人は、前半のシーンは見るのがしんどいかもしれない。

しかしですね、焦り、無力感、絶望感、苛立ちを感じても、どうにか生きていくしかない、何か一筋で良いので希望が見いだせたら良いよね、どうか皆さんあなたの方法であなたの足であるいていきましょうね、という気持ちになった。

かれこれ9年くらい前、私もあの種の薬を飲んでいた。5年くらいかけてやっと飲まなくても良いようになったが、いろいろとしんどい事を思い出してしまった。

あの頃、いろんな焦りがあるのに夜は眠れず、昼間は薬で強烈に眠くて、でも仕事中眠るわけにいかず、まじでしんどかったので、上白石さんの寝ちゃうシーンで画面から目を背けた。

ソフトウエアを書く仕事してるので頭回らないと仕事にならなかった。
1,2ヶ月休職したり、部署を変えてもらったりしたが結局薬で頭が回らず、仕事もうまく進められず、一旦会社をやめた。
仕事を辞めると金の心配でそれもまた大変な思いをした。
劇中での彼らはなんとかちゃんと暮らしているようだったが、現実は厳しい。

グリーフケアの卓球のシーンでは、私を気遣ってたまに遊びに誘ってくれる友人夫婦を思い出した。
あの頃自分に余裕がなかったけど、何も言わずに気分転換に郊外のラウンドワンとかに誘ってくれた。今頃やさしさに気づいて泣いた。

職場の人には大変気を使わせてしまい申し訳ないきもちばかりだった。しかし現在普通に仕事ができている自分と、画面でつらそうにしている2人を観てみると
「生きていくぞ!生きていけよ!」
みたいな謎の先輩目線になった。

「おーし、ok ok
これくらいのこと、なんでもないからな!
お前くらいのやつがお前のペースで働けない社会なんて、そんなわけあるかよ!俺達の社会を舐めるなよ。社会って、俺だってお前だって生きていけるのが社会だからな!
大丈夫だから!」
みたいな、心の声をかけて業務をカバーして上げたくなった。

心療内科の診察の短さ。
あるある。
アメリカのドラマみたいなカウセリングは無い。

光石研はずるいよね。ずるいくらい良いよね。
ほっとするよね。
プラネタリウムでのセリフを考える2人を見て、画面の奥でかすかに微笑えんでいた。

主役2人のつらみをたくさん見た後のシーンで、グリーフケアの会がでてくる。
いやあ、本当に誰しもがしんどい事とどうにか向き合いながら生きている。。。。
社長も元上司も。

りょう。。。
りょう、いいよね。
もう、あの役がりょうってだけでうるうるしてしまう。観ている間は気づかなかったけどシングルマザーだったのかな。
一人で育てて、成人後も心配して、でも離れて暮らしてたのかな、野菜とか食料品とか、度々送ってたのかな。
娘が小さい頃にも手袋を作ってあげてたのかな。

元上司のおっちゃんさ、喫茶店でさ、
山添くんが、ちゃんと前を見て、顔も明るくなって、仕事や面白いことの話をして、自分や息子をプラネタリウムに誘ってくれて、嬉しかったよね。ほっとしたよね。
あなたを見て僕もほっとした。
子供の前だけど、涙がこらえられないよね。
おれもきっとそうだ。

プラネタリウムの解説のセリフは、チェーホフのワーニャ伯父さんのソーニャのセリフを想起させるものでした。
(ドライブ・マイ・カーでも出てきたあれです。)

本作のプラネタリウムのセリフの子細は正確に覚えていないけど、自分にはこのように聴こえた。

「生きていきましょうよ。長い、はてしないその日その日を、いつ明けるとも知れない夜また夜を、じっと生き通していきましょうね。運命がわたしたちにくだす試みを、辛抱づよく、じっとこらえて行きましょうね。」
Tommy

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