イクミナ

夜明けのすべてのイクミナのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
始まって、あ、フィルムだと思った。A MIYAKE SYO FILMの表示。それも16ミリフィルムの粒子の粗さ。あたたかい。なつかしい。お話は、淡々と流れ、並列で、ゆっくり、感情の澱がたまってゆき、渋川清彦が涙ぐむときにこちらも涙ぐんだ。フィルムは、温かく、お話を運び、大田区の寂しげな夜の駅の向こうの明かりはぽつりぽつりと、闇は深く、デイシーンでは、いい風が吹いて、樹々は揺れ、環境音は世界を広げる、16ミリフィルムの粒子の粗いやさしさは、静かにお話を運ぶ。画がいい。味があるというか、空気感があるというか、こんな景色は経験したことがあるなと思わせる。PMSやパニック障害が『夜』なのだろう。シナリオも、画も、芝居も、演出もすべてがいい。居心地が良い。居心地が良いとずっと見ていたいのだ。成瀬己喜男『流れる』の最後の陽だまりの居間、縁側に猫と一緒にずっと、たゆたっていたいと思った感覚を思い出した。
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