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夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5

人間への強い信頼に基づいた[提示]と[祈り]のようなものを感じた。
「栗田科学みたいな、皆が自然体で気遣いし合える同僚ばっかりな良い会社なんてないよ。理想的で不自然。これで利益出んの?」
少し前の自分ならそう言って切り捨ててしまったかもしれない。

かといって、ステレオタイプな良い人って描かれ方でもない。
そう、子供達にインタビューで「この会社の良い所はどこですか?」
と聞かれ「良い所、、、何かあるかな、、、」とか平気で言えちゃう雰囲気。それそのものが良い会社なんだよ、という。(社員役の足立智充さん良い。というか脇役も全員素晴らしい。)

この映画が提示しているものが、いつの日か現実社会を変えてしまう事があるかもしれない。
夜空に瞬く星の光が、この地球に届くまでに何百年かかるように、長い時間がかかるかもしれない。でも変わっていくかもしれない、という祈り。

この世に永遠に変わらないものなど無いのだから。北極星でさえ長い時間をかけ少しずつ位置を変え、また他の星が北を示す役割を果たす。すべては移ろいゆく。

プラネタリウムの鑑賞会に集まった人達が暗がりの中で星を観るように、
この映画を観た僕たちは映画館の暗闇でスクリーンを見上げる。
この映画を思い出すたびにそんな事を考える。

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現実の社会がそうであるように、この映画の登場人物は皆、何かしらの弱さや傷を抱えている。主演の二人である藤沢さんはPMS(月経前症候群)、山添さんはパニック障害。それ以外にも栗田科学の社長は家族を自死でなくし、山添君が所属するコンサル会社の上司も。

誰かが、誰かにおせっかいを焼く。これがトリガーになり、関係性が好転するシーンが良い。最初は拒否されても、それで良い。

藤沢さんに自転車をあげると言われた時には、ぜんぜん喜んでなかった筈の山添君が、
自宅のサイクルマシン(自転車!)でトレーニングしながら上司に、「今の会社合わないんで戻して下さい」なんて言ってた山添君が、
PMSで途中退社した藤沢の為に自宅に忘れ物を届ける。
(すべては移ろいゆく)
街を自転車で走る山添君を昼下がりの陽光が照らす。16㍉フィルムの荒い粒子で撮影した美しいシーン。一番好きなシーン。


〈自転車〉だけでなく、〈手土産のお菓子〉もそう。ある小道具が反復されて登場するが、後半になってその意味や使われ方が変容するのが、映画として旨い。

映画前半に藤沢さんが度々、会社の皆に渡していた手土産(山添君は拒否していたぞ笑)、後半に山添君がどら焼を咸に配る時に静かな感動を呼ぶ。


夜についてのメモ。
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