ぴと

夜明けのすべてのぴとのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
終わりはなく、ずっと続いていく、そう思わせるED。藤沢さんと山添くんを含め、皆が皆そこに生きていて悩みを抱えていて。時間の流れ、心の動きがじっくりと描かれており、半歩前に足を進めた二人を見守ることができた。人の温もりを肌で感じることができる作品。
言葉から伝わる作品もある中、人の動きや表情から伝わってくる些細な変化や喜び、そういったものが静かに素朴に描かれている。意図的な素朴さではなく、藤沢さんと山添くん、そして栗田科学の皆さんがそこにいるという素朴さ。皆が皆、そこに生きている。それを少し見させてもらっているかのよう。
人と人が、人と人として関わり合い手を差し伸べることが、こんなにもかけがえのない素敵な空間を運んでくるとは思わず、それを約2時間かけて終わり得ない余白も残しながら藤沢さんと山添くん、そして二人を取り巻く方々と共に描いたのは構成の妙ともいえると思う。

【栗田科学でのシーン】
光石研さんを筆頭に皆さんの表情やかける言葉、空気感がとにかく温かくて、こんな職場や上司、仲間に出会えたらどれだけ幸せだろうか と勝手に耽ってしまった。些細なことで、何気ない当たり前のことかもしれないけれど、その中に確かに挨拶の温もりもあった。
「おはよう」と言えば「おはよう」と返ってきて、「お疲れ様」と言えば「お疲れ様」と返ってくる。改めて挨拶は自分の他に相手の存在がいないと成り立たない大切なものだなと気付かされた。

山添くんが藤沢さんに出会ってから、物としてもたらされた、山添くんにとっての新たな”足”の描かれ方がとても印象的だった。
そしてそれが物理的にも心理的にも、山添さんと藤沢さんを繋ぐ物として描き出されていたことに、とても心が温まる。
渋川清彦さんや光石研さんに、まさか泣かされるとは思わなかった。山添くんの上司がこのお二方で本当に良かった。山添くんの側にずっといたからこそ分かる、山添くんの変化に気づいた時の辻本さん(渋川清彦)の間、表情に完全にやられた。見入ってしまった。

松村北斗さん、そして上白石萌音ちゃん、お二人とも普段の輝かしい姿を見ている故に、演じる上で素朴さを醸し出すのが本当に上手いなと、この作品に限らず感じる。ただ素朴なだけではなくその場に生きていることを感じさせる、まるでこの世のどこかを切り取ったかのような素朴さ。

また一つ、この先寄り添ってくれる、そんな作品に出会えた。
ぴと

ぴと