ガリガリ亭カリカリ

夜明けのすべてのガリガリ亭カリカリのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
5.0
人生ベスト。星10。あまり最近の邦画がオールタイムベストに入らない自分なんだが、この世の邦画でいちばん好きかもしれない。自分にとってかけがえのない大切な映画すぎた。
心の未だ揺れ動いたことがない場所で感動した。泣いたとかじゃなく「ありがとうございます……」って気持ちでいっぱいになった。

何もかもが素晴らしいし、鑑賞直後の感想は本垢に書いたので。
https://filmarks.com/movies/108265/reviews/171237048

信頼できる友人たちが大絶賛していて、自分も彼らに導かれてこの映画を観て、そしてまた信頼できる友人たちへこの映画を推薦した。というか、「あなただからこそ、この映画を観てほしい」という気持ちが強くて、それは言い換えれば「いつも本当にありがとう」という気持ちでもある。

猛プッシュした友人が今日観てくれて、開口一番「あまりにもすばらしい」「この映画は静かに、これからの映画のスタンダードになる」と述べていて、それは同感というより嬉しさが勝った。「君がそう思ってくれることが嬉しい、ありがとう!」という気持ち。もしも友人がつまらないなぁと思っても構わない、"つながること"、"同じ光を観たこと"が、自分にとってはたまらなく嬉しい。この映画の"嬉しさ"は、そうやって心の星座が繋がるような感覚がある。あなたはわたしにとっての星であり光であって、そしてまたわたしもあなたにとっての星であり光でありたいよ、という優しさが広がっていく感覚。おこがましいかもしれないが、この優しさと嬉しさは共有したい。そんな些細な欲望をもってして、この映画を鑑賞したことを表明したいし、届くべき友人との繋がりに感謝を表したい。
あまり映画に対して上記のようなことは思わないのだが、というかほとんど初めて思ったことだが、観る前と観た後で、世界と、世界を共に生きる人々に対する眼差しが変化する最上級の豊かさに、完全ノックアウトされたのだった。

映画的言語の果てしなき秀逸さや、カメラを置く位置の正解しか示されない全編、そして原作からの天才的な脚色が成されたスクリプトの素晴らしさ、それぞれ全てを愛によって語り尽くすこともできるが、
こうして友人から貰った感想がそこにあり、それ以外には何もいらないという気持ちになった。この映画を観た君がいるのがワシゃ嬉しいよ。自分もこの映画を観た、そんな自分も"嬉しい"よ。

友人との談話の中で、この映画には悪役がひとりもいない、というか出てくる人みんな優しくていい人で、そんな映画こそが同時代的には必要だろうという話になって、友人は「これからの映画は悪を描くのではなく、悪を消すこと」という旨を言っていて、それはなるほどと思った。
濱口も『悪は存在しない』と言っているし(笑)
三宅唱にしても、彼のインタビューなどを読むと、明確に"光"を信じて撮っていることが分かる。
そして、"夜"を決して否定していないのも良い。
こんな最悪な時代に、どんなに遠くても常にそこにある光を、星空を見上げること、映画館の暗闇でこの映画の"光"を観ることは、決して綺麗事ではなく、自分たちが今を生きていく糧であり、そこは自分も信じようと思えた。

ネタバレになるので書かないが、一般的な作劇においては「この主人公はラストでこうなるべき」というお約束があったりして、そこにカタルシスを感じたり、成長を感じたりするわけだが、この映画においては「それでいいんだよ、大丈夫」という眼差しが通底している。
終盤、主人公はなんてことのない行動をする。別にドラマチックでもない、日常の切り取られた時間であり運動でしかない。けれども、その運動には作劇を超越した謎の感動がある。映画って素晴らしいなと感じた。

この大傑作がシネコン含めた200館スタートで、徐々に90館、今や11館と上映館数を減らしてきてしまっているが、こういった映画を永らく上映し続けない映画産業なんか滅んでしまえと思いつつ、心の中で「栗田科学の人たちはそんなことは言わない……」と自制している。
たとえば、自分はまだ金子修介監督の新作『ゴールド・ボーイ』を観ていないけれど、絶賛の口コミと相反して、初週以降の大袈裟な館数減少に心底ゲンナリする。それならば、やっぱり映画産業なんか滅んでしまえ……と感じる次第だが、『夜明けのすべて』を観て、映画と関係すること、そのままならなさと豊かさを改めて感じた自分なのだから、なるべく終わってしまう前に映画に会いに行こうという気持ちが倍増した。

マジで来週とか、下手したら今週とかで終わるんじゃないでしょうか?信じられませんが、今これを読んでいる方にも是非観に行っていただきたいです。終わってしまったら、もう出会えない。そんな時間や場所や、人や映画はある。おすすめします。