ねんお

夜明けのすべてのねんおのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5
 私の人生が流れていく中で、この目で世界を見ていく中で取りこぼされているものに、この映画は静かな視線を注いでいる。この世界のどこかには、山添や藤沢のように、望まぬ制約の中で生きづらさを抱えている人がいて、けれどそれを明らかにすることは難しい。なぜならそれは「普通」からかけ離れているから。

 しかしながらこの映画は、彼らを「普通」という枠組みに収まらず、彼ら自身として受け入れている。夕暮れや走りゆく電車という日常の挿入は、私たちがかけねなく世界内に存在していることを繰り返し強調する。

 コミュニティの中で、藤沢がお詫びや日頃のお礼としてお菓子を「共有」することは、これまでPMSを抱えてきた彼女の処世術の一つではあるが、それ以上に本作においては重要なキーワードとなる。お菓子の「共有」を通じて、彼女と、彼女が連れ添っていかなければならないものをも、コミュニティは受け入れていく。だからこそ、山添が買ってきた鯛焼きを初めて配るシーンは身に沁みるものとなる。

 我々は互いに同じ傷を負うことはできないが、共有し、支え合うことはできる。夜明け前が1番暗い、非常に印象的な引用である。もっとも深い絶望の最中にあるとしても、それは夜明けの前兆かもしれない。しかし、朝の光をもたらすためには自身で地球を回さねばならない。
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