生足

夜明けのすべての生足のレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.0
褒めることしかできないのが悔しい。

生活、社会、労働、街、温度や空気みたいなものがバランス良くフィルムに記録され、その全てが凄い濃度。階段を登る親を見送った後に車のスライドドアを閉めるところや、家で足湯に浸かっているところなど。話の筋とは関係のないところの背景までしっかりと作り込み、可能な限りそれらをショットの中に捉える。そういった細部が人物に生活感を与えるのだろう。

1シーンを切るタイミングが早いのが印象的。山添の彼女がロンドンへの転勤を告げるシーンや、藤沢がヨガで情緒不安定になるシーンなど。明らかに早いタイミングでそのシーンが切られているが、いずれのシーンも状況の圧力が強く、より長く続けても豊かさが増えないことを思うと納得できる。言い換えれば、早めに切られているシーンは、観客が映されていないその前後を容易に想像できるシーンでもある。わざわざLINE画面を映さないのも同じ理由からだろう。

性欲、嫉妬、恨みなどの一般に美しいとは言われない面がほとんど描かれない。しかし、多少の嘘くささはあれど、それらは確かに存在し、フレームに収められていないだけだと感じることができた。
これは前述した、
・背景まで練り込まれた人物や物事が深掘りされることなくフレームに収められていること
・観客にその前後への想像を働かせることを求めるシーンが多いこと
などによって、映画の当然の原理である、フレームに捉えられていない時間と空間が存在することを意識させるような作りになっているからだと感じる。

重めの内容をユーモアで包んで仕上げているのが本当にありがたい。藤沢に洗車を勧めるシーンとかシビれる。

ショットもとても豊か。前述の内容とも繋がるが、背景を持った生活や社会、街のいろいろな姿を映そうとすると必然的にショットは豊かになってくるのだと思う。望遠のショットが多いのも納得いく。質感も最高。

主人公二人の人物像も可愛らしく、愛しやすい。

徹底してリアルであったからこそ、その中に非現実的な何かを切り込ませて欲しくもある。
生足

生足