第七電機工房

夜明けのすべての第七電機工房のネタバレレビュー・内容・結末

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

この数年で一番良かった映画だった。
劇場で観て 帰ってその勢いで原作も読みました。

この作品は、生きづらさは、二人として同じことはなく、ただ、自分のことを考えてくれる他人がいるということの幸せを噛みしめる作品だと思う。

映画化にあたり、原作から作品の大切にしている部分(メッセージ)をただしく換骨奪胎して、映画というフォーマットの中で、昨今の原作をどのように扱うかを考えさせられる。
また、原作から脚色して、移動式プラネタリウムをもってきたことで、「夜明けのすべて」というタイトルにより意味をもたせたと思う。

映画の中では、恋愛も大きな事件もおきてはいない。
無駄なセリフもなくて、時間の経過の中で、山添君が「自分を取り戻していく」とともに、画面もあかるくなり、昼間のシーンが増えていく。

藤沢さんは、自分が周りに気遣うことで、好かれようとしていたのではなく、「本当は人に喜んでもうのが好き だ」ということに山添君に向き合うことで、気づかされる。
でも、毎月やってくるどうにもならないものに苦しめられてる自分も恋人でもない同志の山添君には自分をさらけ出せる。

映画の脚色で一番良かったところは、星の話が縦軸になって、歩道橋の上でオリオン座を見る話、移動式プラネタリウムの話、自信なさげにインタビューを受けていた藤沢さんが、移動式プラネタリウムの中で「夜についてのメモ」の話自信をもって読む声を聴く、山添君の晴れやかな表情は、「自分を取り戻した」清々しい顔だった。

上白石萌音・松村北斗、二人の自然で小さな表情の演技がとてもよかった。

すべてはできないかもしれないけど、お互いをすこしだけ理解してくれて、「また明日」 といってくれる存在は、とてもありがたくて、すこしだけ生きづらさを和らげてくれるのかもしれない。

個人的なことで、心を病んで、いまも定期的に心療内科に通う身からすると最初の30分はかなりいたたまれなかった。
心療内科の診察ってあんな感じのところもある。
診断がついたからと言って、皆が同じ方法で治るわけではないし、どう受け入れていくか、向き合っていくかも人それぞれで、ただ、周りのやさしさや、気遣いも受け入れられるようになるまで時間がかかる、とにかく、なにもできなくなる。
本当に山添君のように笑うことすらできなくなる。

この作品を見た人が、この作品のように、そのような状況の方が近くにいた場合に、適度な距離間で接してくれることはとてもその人たちにとって本当にありがたい。
多くの人が、この作品を観て、周りの人に少しだけやさしくなれたり、困難を抱えている人をそっと見守ってあげられるようなきっかけになったらいいなと思います。

■映画の中で感じたこと
山添君の「土日休んでしまうと、月曜つらくなる」も心が弱ってるとすこしわかります。

「土日休んでしまうと、月曜つらくなる」
少し回復してきた人からすると、毎日同じようなリズムで動くことで、心のスイッチの切替をしなくて済む。ということなのだと思う。

心の疲れた人は、「何かを切り替える」のに大きなエネルギーを使うから。

このような状態の人に、

「まるまる予定やすることがない時間」

がつづくことは、それは「なにかをしなきゃいけない」という焦りが生まれてしんどくなるのだと思う。

岸本さんが子供を連れてお正月に外へ連れ出してくれて、それを受け入れられた山添君は回復してたんだと感じた。