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夜明けのすべてのKのレビュー・感想・評価

夜明けのすべて(2024年製作の映画)
4.1
21/3/2024 thr シネマイクスピアリ スクリーン3 F9 20:35〜
9-10でセンターだけど10の方がいいかも。字幕同じ高さ見上げ。左右黒帯ビスタ。


丁寧に優しく優しく土を取り除き、一枚ごと一口大にゆっくり切り分け、程よく芯を残しつつ口当たりも良い程度に煮込まれた、寒い日に口にする野菜スープみたいな………そんな……作品だったよなあ………。それは他人に作ってもらったものでもいいし、自分で時間をかけて作ったものでもある。"良い"と肌で感じるシーンの詰め合わせだった。優しい綿の服に袖を通すような、ゴワつきは確かにあるんだけど温かみも倍ある、そんななあ。


/公開前から話題ではあったけど、TLでもまだひっそり話題が続いていたため上映終了日に駆け込み鑑賞できた。インターネット叡智、いつもありがとう。

/ディテールやべっ……当たり前のようにミックスルーツの子がいたり、女子生徒はスカートの下にジャージ履くし、子供にハンカチ差し出された時の"どーぞ" "サンキュー"って会話の「こうやって育てられたんだろうな感」とか激サムの夜なのに普通に氷入りまくったジュース指先で飲むヤンチャさとか、"子供迎えに行ってから飲み会行くわ"のリアリティとか、全部が裏取りされてるよな堅牢さがある。
主人公藤沢さんの母もおそらく何らかの病状でリハビリに通ってるし、一見順調に見える大企業の社長だって自身の繊細さに向き合っているし、困難を抱えていない人なんてこの地球上に誰一人いないんだっていう、単純なんだけどすごく新鮮な発見を、させてくれる……人間に対する解像度、本来はここまで鮮やかであって欲し〜〜って悔しくなるほど実感する。
いや、自分の他人に対する見方の雑さをほんと悔いるよ。善性を信じられなくて、ごめんな……!!!嘘じゃなくて。ほんとに。なんか、気付けなくてごめん、例えば障害者雇用している会社の役員とかも多分生活の中で「気付き」があったからインクルージョンを積極的にやってるわけでしょ、自分にはまだそうした気付きの機会が訪れてないや……。

今現在(鑑賞当時)車椅子ユーザーの映画館利用を映画館側が断った件が話題になっていて、"障害者はずっと下手に出て可愛がられるべき"といった横暴な論まで出ていてかなり問題になってるけど、今必要なのは見返りを求める括弧付きの"優しさ"なんかより--勿論優しさも大事だけど、持つべきは"物事を細分化して考える力"なんじゃねーの?!って強く思わせる作品だった……。


/プラネタリウムの最後で藤沢さんが言う"そのカセットは古くて、最後まで聴けないんです"のところでゴワッ声を殺しながら涙してしまった、故人の声……。栗田社長が、山添くんが見つけた弟の声で喋るカセットを聴いているところに現れて、ふと優しく温かく笑みになる場面も結構ヤバかった。亡くした直後だったらきっと聴くこともできなかっただろうな、今だから笑えるんであって、、てところまで考えてサ。。
いつかとても親しい人を亡くした時でも、自分はこの別れの先に人生が続くこと知ってるんだから多少大丈夫かもなって気もしてる。ありがとね。

/グリーフケアの会に、山添くんの元会社(元請けかな?)の社長も参加してるのがいいね、それなりに地位のある人がケアを大事にしているって描写それ自体が大切。
栗田科学の社長さんも山添くんの元上司も、部下たちが"変わり行くこと(--反対に変わらないことでもある--)"の当然性を認めながらも惜しみながら、さらっと送り出してくれるのがすごくすごくあったかかったな〜〜〜。。!

/上白石萌歌さんの声ずっと聴けるってツイートしてた人がいたけどそれはマジでそうでえ……。。。なんでこんなに耳馴染み良いん??丸っこさを形にしたような声だ。よく発掘したよ新海さんも。
上白石萌歌さんの演じる、真面目で控えめな女性新入社員っぽさ、あ、いるいる〜〜!!としか思えなくてすごかった。"いる"わ。働いたことないけど。

/やっぱフィルム撮影だったよね??手触りが感じられるのがとても良かった。鮮明じゃないことから得られる情報量の多さってあるよな〜。

/にしてももっと部屋は汚いと思うぜ!!これは断言できるんですけど。"病気の重さにも段階があるんだよね"ってしんどさに差をつけられてしまう場面があったけど、人と関わりが少なくてもっともっと一人の生活が長いやつの部屋は絶対汚い。俺が証人だ。日本映画大体部屋綺麗がちなのがなあ……。汚す勇気を持とう。『Perfect Days』とかも結局未見だけど同じことなような気がする。

/貧しさと貧しさによる心の余裕のなさでは他人に親切にできない、詰みだ……

/恋愛関係にならない、しかも山添くんも最後"恋人や友達、同じ会社の仲間が〜"とモノローグしていたのが印象的だった。しっかり"それ"でしかない間柄のパーソナリティが、何のメリットもデメリットもないのに助け合いをするというのはめちゃくちゃ救いだ、よ。Aスペクトラムの人間としても思う。恋愛や性愛という、何の保証もないのにほぼ全人類が信頼を寄せているそれによってではなく、ただ"助け合い"を描いているということ……。もしかして自分にもできるのか?相互ケアが……。

/帰り道に中華バンを食べながら二人歩く道で、"そう悲観しなくても良いのに〜"て軽く藤沢さんが言ってるの、同僚のことを思い出してちょっと気おされるものがあった。インターネットばかりやって、自分の今も未来も過去も納得できずに悲しんでばかりいる自分に対してよく(元同僚の)彼女は"そんなに思い詰めなくても"みたいなこと軽く言ってくれるんだよな。客観的に見るとそんな感じなんだな。にしても彼女のその客観した気楽さには幾分救われた。もう労働辞めちゃったけどね。

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https://hanako.tokyo/culture/428803/
いいコラム。思えば、前職も素性がわからない自分のことをよく雇ったなと思うし、社員登用の話持ち掛けたなと思うし、よくすんなり辞めさせたなと思う。しかも辞めた後もアルバイトまで持ちかけてきた。職務内容が合わなかっただけで、人は完全に良かったんだよな。雇う優しさ、去らせる優しさ。気付いて行きたいわ。
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