柿トマト

AIR/エアの柿トマトのレビュー・感想・評価

AIR/エア(2023年製作の映画)
3.0
“映画を”ステマしてはいけないけど、“映画で”ステマすると良きかな

「ステマ」とは、「ステルスマーケティング」の略称であり、消費者に広告であることを隠し、非営利の口コミと見せかけてバンドワゴン効果やウィンザー効果を狙うもので、不正な宣伝手法の一つである。この手法は一昔前に話題になったことがある。

例えば、2019年に公開された「アナと雪の女王2」では、複数の漫画家が同時に感想漫画を投稿したことが物議を醸した。後に、ウォルト・ディズニー・ジャパン側がステマを認め、漫画家らに報酬が支払われたことが明らかになった。この騒動からは、人々が金をかけたマーケティングに対して嫌悪感を抱くこと、そして許せないということがわかる。特に、映画というサービスに関しては、マーケティング手法に敏感に反応する傾向があるようだ。

しかし、ナイキの伝説的なバスケットボールシューズ「エア・ジョーダン」を扱った映画「AIR/エア」の場合、ステマが成功している。

1984年、業績不振のナイキのCEOフィル・ナイトは、バスケットボール部門の立て直しを命じた。部門の社員ソニーは、当時新人だったマイケル・ジョーダンに目をつけ、彼とコラボした革新的な商品を開発することを提案した。このアイデアが最終的に「エア・ジョーダン」という商品として形になるわけだが、映画内での紹介方法は上手くてにくい演出だ。

映画の終盤、ナイキがジョーダン一家に会議室で契約の交渉を持ちかける。机の上に置かれたクロスをサッと取ると現れるケースに入った美しい意匠の靴。観客が息を呑む間に、そのガラスのケースから靴が取り出される。その後、マイケル・ジョーダンがシューズを触り、ナイキの逆「へ」の字みたいなマークを丁寧にゆっくりと撫でる姿が描かれ、見る側が思わずうっとり購買意欲をそそる演出がされている。上映後ABCマートに直行してしまった。

ただし、映画内で商品を取り込むことを「ステマ」と呼ぶのは誤りであり、「プロダクトプレイスメント」と呼ばれる正式な手法。映画における商品の紹介や宣伝は法的に問題があるわけではないのでご注意を。
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