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AIR/エアの鹿のネタバレレビュー・内容・結末

AIR/エア(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

うわっ、面白いじゃないか!?
見る前はNIKEの宣伝だとか、数日前に本人が現役時代に履いていたエアジョーダンが高額で落札されたのを知って、この作品が一役かっているのか、とか勘ぐって、あまり乗り気じゃなかったのだが……。
むさいオッサンしか出てこないし、バスケにはキョーミがないし、これを観に映画館に向かう途中、なんか足元に違和感があって見るといつものスニーカーを履いてきたつもりが数日前の雨の日に履いた長靴だったし、じゃあいつものスニーカーはどこのかというと知らなくて、玄関まで見に行ったらアディダスだったし、もう、観に行く資格がないレベル。だが、この作品の面白さはそういうことではなかった。
これは、職業上の目的のために自分の役割を全力で果たす、常識的な一線を超えたアタマおかしいプロの物語である。フツーに仕事をこなしているだけでは決してたどり着けない到達点。最後のひと押しのプレゼンで相手(ジョーダン一家)の反応を見て、その場で即興の演説(?)に切り替えるマット・デイモン。そこで語られた言葉は決定打となる感動的なものだったが、プライベートでジョーダン一家に思い入れている訳ではない。しかしそれはウソとか口先だけではなく、職業上の目的に合わせた誠意のある本気の言葉なのだ。さらに言えばこれは映画でマット・デイモンの演技なのだが、演技=ウソという訳ではないことと同じことである。この映画自体がそのことを体現していて、この出来事を映画として再構築するのに、これ以上のものは出来ないと思わせる。いやホント、よくこの視点で面白くできたよね?伏線で出てくる、キング牧師の観衆の反応を見て即興で演説の内容を変えたエピソードも効いている。とんでもないことを成し遂げた人に自分を投影するのはまったくもっておこがましいにも程があるというものだが、スケールがちっちゃいながらも私も日々職業上の目的に合わせて、仕事として自分の役割を全力で行っている(と思っている)。それはなかなか報われないが、止めることができない。最近面白いと思える映画に出会えなかったが、これを面白いと思ったのは、自分と同じ仕事のやり方を貫いて成功させたストーリーに溜飲をさげたから、かもしれない。やっぱり自分は間違っていなかった!いつか自分のエアジョーダンをヒットさせて認めさせてみせる!その時にほえずらかくなよ!……めっっったにおこらにないことだから映画になっている、ということに気付かず、勘違い野郎を多数生み出す、実は危険な映画かもしれない。何かとんでもないことをしでかして、記者に囲まれ、鹿は重い口を開いてこう言うのだ。「『エア』という映画のマット・デイモンに啓示を受けました」と。
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